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原発の「多重防御」は、砲弾とテロで簡単に破れる~チェルノブイリ攻撃であらわになったもろさ

不作為の対策の遅れは、立地地域住民に対する背信だ

北村俊郎 元日本原子力発電理事

「ミサイルを防げる原発は世界に1基もない」

 「ロシア軍がウクライナの原発をミサイル攻撃」「チェルノブイリ原発をロシア軍が占拠」などのニュースは世界中の原子力関係者を驚かせた。こうした事態が起きたことで、原発に外部からもたらされる脅威が浮き彫りになった。

 3月4日、官房長官は記者会見で、日本で原発がミサイル攻撃を受ける事態が起きると、国民保護法等が適用され、「海上自衛隊のイージス艦による上層での迎撃と、航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオットによる下層での迎撃を組み合わせ、多層防衛により対処する」との見解を述べている。

ウクライナ南部のザポリージャ原発で、ロシア軍の攻撃で焼けた訓練棟=2022年3月4日、ウクライナの原子力企業「エネルゴアトム」がSNSに投稿した拡大ウクライナ南部のザポリージャ原発で、ロシア軍の攻撃で焼けた訓練棟=2022年3月4日、ウクライナの原子力企業「エネルゴアトム」がSNSに投稿した

 5月13日には、山口壮原子力防災相が会見で、原発への武力攻撃に対する防衛について「ミサイルが飛んできてそれを防げる原発はない。世界に1基もない」と明言した。ミサイルが原子炉建屋の一角を吹き飛ばし、格納容器や原子炉圧力容器も破壊し、原子炉内の放射性物質を周辺に撒き散らすという話のようだが、そんな乱暴なやり方ではなくても、福島第一原発の事故のことを考えれば、テロ集団によって容易に原発事故を起こして住民を脅威にさらすことの方が現実的ではないか。

 首相官邸の屋上にドローンが密かに落下したのが発見され大騒ぎになったのは7年前の話だ。それから現在までのドローンの進化はすさまじい。

 ウクライナ侵攻のニュースからすると、最近は編隊飛行、自爆型など自由自在だ。現在、日本では原発が主に警察の機動隊によって守られており、自衛隊がいるのは若狭地区だけである。イージス艦よりも、もっと現実的なテロの脅威に対し防御体制を整備しておくべきだ。

チェルノブイリ原子力発電所4号炉の制御室=2019年11月7日、ウクライナ拡大チェルノブイリ原子力発電所4号炉の制御室=2019年11月7日、ウクライナ


筆者

北村俊郎

北村俊郎(きたむら・としろう) 元日本原子力発電理事

1944年、滋賀県生まれ。1967年慶應義塾大学経済学部卒業後、日本原子力発電株式会社に入社。本社のほか東海発電所、敦賀発電所、福井事務所など現場勤務を経験したのち、理事・社長室長、直営化プロジェクトリーダーを歴任。主に労働安全、教育訓練、地域対応、人事管理などに携わり、2005年に退職。福島県富岡町に移り住む。同年から2012年まで社団法人日本原子力産業協会参事。福島第一原発の事故により、現在も避難を続けている。著書に「原発推進者の無念」(平凡社新書)「原子力村中枢部での体験から10年の葛藤で掴んだ事故原因」(かもがわ出版)がある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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