不作為の対策の遅れは、立地地域住民に対する背信だ
2022年05月18日
「ロシア軍がウクライナの原発をミサイル攻撃」「チェルノブイリ原発をロシア軍が占拠」などのニュースは世界中の原子力関係者を驚かせた。こうした事態が起きたことで、原発に外部からもたらされる脅威が浮き彫りになった。
3月4日、官房長官は記者会見で、日本で原発がミサイル攻撃を受ける事態が起きると、国民保護法等が適用され、「海上自衛隊のイージス艦による上層での迎撃と、航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオットによる下層での迎撃を組み合わせ、多層防衛により対処する」との見解を述べている。
5月13日には、山口壮原子力防災相が会見で、原発への武力攻撃に対する防衛について「ミサイルが飛んできてそれを防げる原発はない。世界に1基もない」と明言した。ミサイルが原子炉建屋の一角を吹き飛ばし、格納容器や原子炉圧力容器も破壊し、原子炉内の放射性物質を周辺に撒き散らすという話のようだが、そんな乱暴なやり方ではなくても、福島第一原発の事故のことを考えれば、テロ集団によって容易に原発事故を起こして住民を脅威にさらすことの方が現実的ではないか。
首相官邸の屋上にドローンが密かに落下したのが発見され大騒ぎになったのは7年前の話だ。それから現在までのドローンの進化はすさまじい。
ウクライナ侵攻のニュースからすると、最近は編隊飛行、自爆型など自由自在だ。現在、日本では原発が主に警察の機動隊によって守られており、自衛隊がいるのは若狭地区だけである。イージス艦よりも、もっと現実的なテロの脅威に対し防御体制を整備しておくべきだ。
ここで、福島第一原発の事故がどのようにして起きたかをおさらいしておこう。原発は三段構えの防御施設で過酷事故を防ぐようになっているが、福島第一原発の場合、この三段が次々と破られて核燃料が溶け出し、壊れた格納容器の隙間から放射性物質が外部に出る過酷事故となった。
防御の第一段は、原子炉が急停止した際に出る大量の崩壊熱を除去するために直ちに水を注入する装置だ。原発が地震などで停止すると、いままで電力を送り出すのに使っていた送電線で、逆に外部から電力を送ってもらい、その電力で冷却ポンプを動かす。そうすることで冷却用の水を炉内に入れることができる。
ところが、福島第一原発の場合、地震で構内の送電鉄塔が倒れ、変電所も被災し、外からの電力を送ってもらうことができなくなった。
次に防御の第二段として登場するのが非常用電源である。これは外部からの送電ができなくなった場合、所内のディーゼル発電機で発電して冷却用のポンプ・モーターを動かす仕組みだ。ところが福島第一原発の場合、複数あったこの装置がすべて津波で浸水して使えなくなり、ポンプ・モーターを動かせなくなった。
こうなると防御の第三段として、自走式の電源車を原子炉建屋に横付けし、その電力でポンプ・モーターを回すことになる。福島第一原発の事故当時も、多くの電源車を東電の他の事業所や他の電力会社から集めたのであるが、うまく使えずに冷却水の注入は消防車のポンプを使って行った。そのうち強い余震があったり、水素爆発があったりして防御の第三段は機能しないまま、炉内の核燃料が溶け落ちてしまった。
第一段の外部電源が維持されていれば第二段、第三段に行かずに済んだわけで、地震とともに第一段を失ったことは痛かった。
福島第二原発では、よく知られているように増田所長以下の奮闘で、生き残っていた送電線からの電気を原発の配電盤に人海戦術で繋ぎ込んで、なんとかポンプモーターを回して原子炉の冷却に成功している。それほど外部電源は大事なものだ。
ところが、外部電源は何百本もの鉄塔と高圧電線で主に山の中を延々何百キロメートルも首都圏まで続いている。途中には変電所もある。テロ集団がそのうちの一箇所の鉄塔を破壊するか、送電線を切ってしまえば、福島第一原発と同じように外部電源、すなわち防御の第一段を無効にできる。
次に第二段の非常用電源であるが、これも極めて無防備だ。
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