メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

「1ドル500円、そしていずれハイパーインフレがやってくる」伝説のディーラー藤巻健史氏の警鐘

経常収支悪化、マイナス金利、米の量的引き締めが出そろう「悪夢」が近づく

原真人 朝日新聞 編集委員

日銀が債務超過になるのが一番怖い

――どうも日銀は「債務超過になってもそんなひどい事態にはならない」と考えているようです。藤巻さんは議員時代、日銀の債務超過の可能性について黒田総裁を追及していましたね。

 「黒田総裁は『一時的にはそうなるかもしれないが……』と最後は嫌々答えていました」

――先日、ご長男の藤巻健太・衆院議員(維新)がこの問題を引き継いで、国会で黒田総裁に質問していましたね。

 「黒田総裁はまた『一時的にはなるかもしれない』と答えていました。そして『日銀は通貨発行益があるから大丈夫』と言っていましたが、冗談じゃない。日銀にはこれから通貨発行益どころか、経常的な通貨発行損が出るはずです」

 「中央銀行が債務超過になっても大丈夫なのは三つのケースだけです。1番目は債務超過が一時的である場合。2番目は金融システム救済のためであり、中央銀行自身のオペレーションがまともなこと。3番目は税金で中銀に資本投入ができる場合です。日銀は残念ながら一つも当てはまりません。ちなみに政府の資本投入を前提に政策的に日銀財務を赤字にしてしまうのは、いわば予算行為です。それを前提に赤字になってもいいという政策はおかしい。予算行為というのは国会の承認でおこなうわけで、それを黒田総裁ら日銀の政策決定会合メンバー9人だけで決めるのはおかしい」

――債務超過になった中央銀行も過去にはありますが。

「スイス国立銀行(SNB)が債務超過になっても大丈夫だった例としてあげられます。ただ、SNBの場合は、2009年以降に発生した欧州債務危機のとき、通貨スイスフランがユーロに対し強くなりすぎて、ユーロ圏からの逃避マネーが流入しやすくなっていたのに対する防衛という意味がありました。このためSNBはスイスフランを売って、ユーロ債を買っていたのです。しかしスイスフラン買いの圧力に抗しきれず、2015年に無制限介入による相場の上限防衛を放棄。スイスフランは急騰しました。抱え込んでいた大量のユーロ建て資産に巨額の為替差損が出ることになり、SNBは債務超過状態に陥りました」

 「ただこのケースはスイスフランの信認が強すぎるという問題なので、スイスフランを発行するSNBが債務超過を解消することは難しくはありません。債務超過が一時的だとマーケットも認識していました。しかし日銀の場合は、円の信認が弱いなかでの債務超過となります。解消はできず、どんどん悪くなっていくしかありません」

国債発行残高の推移(単位:兆円。橙色の部分が黒田総裁就任後の残高、約250兆円増加した)拡大国債発行残高の推移(単位:兆円。橙色の部分が黒田総裁就任後の残高、約250兆円増加した)

――日銀が債務超過になったら、何が起きますか。

 「海外の金融機関が日銀の当座預金を閉じて、日本市場から引き揚げるでしょう。そのことの重大さがあまり理解されていないようですが、日銀の当座預金口座がなければ、日本市場では銀行の仕事ができません。すべての銀行間取引に必要な口座です。約束手形だって資金の動きは日銀当座預金を通じてのやりとりです。全部の金融取引が日銀当座預金を経由するわけです。とくに重要なのは為替取引です。邦銀Aが米銀Bからドルを買うときには、Bは米連銀にあるみずからの当座預金から邦銀Aの口座へドルを移す代わりに、日銀にあるAの口座からBの口座に円を移してもらいます」

 「昔、私は務めていた三井信託銀行を辞め、米モルガン銀行に移りました。そこで一番驚いたのは、『政府も中央銀行ももしかするとつぶれるかもしれない』という前提で取引枠が設けられていたことです。邦銀では取引相手がG7(先進主要7カ国)の国だったら、国債取引でも中央銀行取引でも、取引金額に制限がなく青天井でした。しかしJPモルガンでは、この国とはここまでしか取引しちゃいけない、という制限がありました。だから日銀が債務超過になったら、外国銀行は日銀との取引枠を減らしてくると思います。邦銀はそんなことはやらないでしょうが、日銀が債務超過になったら外銀は日銀の当座預金口座を閉鎖するはずです。株主の監視の目が厳しい米系金融機関は特に厳格にやるでしょう」

 「そうなったら日本企業はドルを買う手段がなくなります。日本で外国為替取引ができなくなってしまうことだって十分ありえるので、日本経済は干上がってしまいます。外資企業はみな撤退してしまうでしょう。国債や株式は投げ売り状態になります」


筆者

原真人

原真人(はら・まこと) 朝日新聞 編集委員

1988年に朝日新聞社に入社。経済部デスク、論説委員、書評委員、朝刊の当番編集長などを経て、現在は経済分野を担当する編集委員。コラム「多事奏論」を執筆中。著書に『日本銀行「失敗の本質」』(小学館新書)、『日本「一発屋」論 バブル・成長信仰・アベノミクス』(朝日新書)、『経済ニュースの裏読み深読み』(朝日新聞出版)。共著に『失われた〈20年〉』(岩波書店)、「不安大国ニッポン」(朝日新聞出版)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

原真人の記事

もっと見る