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円安とインフレの根本原因を本音で語ろう

日本の凋落を止めるためにできること

田内学 お金の向こう研究所代表

キッチンのゴミをリビングに捨てるな

 対策として、「円高にするには、日本銀行のマイナス金利政策を撤回して、金利を高くすればいい」という専門家の意見がある。日銀が金融機関から預かる当座預金の金利を上げよというものだ。これは全く正しい。ただし、円安退治だけを目的にした場合だ。

拡大スーパーのオーケーでは、メーカーが出荷価格を値上げすると発表した商品について、値上げ前の購入をすすめるお知らせを掲示した=2022年5月19日、横浜市

 これは本質的な解決になっていない。散らかったキッチンを片付けるために、キッチンのゴミをリビングルームに捨てているだけだからだ。

 たしかに、金利を上げれば外国からの資金が流れ込む。円が買われて円高になる。輸入価格は安くなるから、物価高はある程度収まる。キッチン(円安問題)はきれいに片付いた。

 ところが、キッチンのゴミはリビングに移動しているだけで、ゴミ自体が片づいたわけではない。日銀が金利を上げると、日本国債の金利も住宅ローンの金利も上がる。国の増税は必至になり、個人の毎月のローン返済額も大変なことになる。もちろん、日本の景気が回復していて金利を上げるならそれは真っ当な判断だ。しかし、実力以上に金利をあげてしまうと、リビングはめちゃくちゃな状態になる。

 金利を上げて外国からの資金を呼び込むのは、「日本国内の誰かが支払う高い金利を外国に渡して、日本円を高く買ってもらっている」だけの話だ。500円のキャッシュバックをつけて、1000円の商品を1500円で買ってもらうことに、なんの意味があるだろうか。キッチンもリビングも家の中全てを片付けるには、本質に立ち返って考え直す必要がある。

 解決すべき本質的な課題とは、「欲しいモノ(とサービス)が手に入らず、生活が豊かにならない」ことだ。長い間、日銀がインフレを目標に掲げて金融緩和を行なってきたのも、この課題を解決するためだ。

 インフレを起こして物価を上げ、デフレスパイラルから脱却すれば、それ以上に賃金が上がる算段だった。ところが現状を見てわかるように、賃金が上がらないまま、物価が高騰している。しかし、この件については日銀を責めてもしょうがない。今回の問題は、金融調節だけで解決できる問題ではないからだ。


筆者

田内学

田内学(たうち・まなぶ) お金の向こう研究所代表

1978年生まれ。東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了。国際大学対抗プログラミングコンテスト日本代表。アジア大会入賞。 ゴールドマンサックスで金利トレーダーとして16年勤務。日銀による金利指標改革にも携わる。中央省庁、自民党や議員連盟の各種会議で財政、年金、少子化問題について提言を続ける一方、学校等ではお金の教育や社会科公共の講演を行なっている。インターネット番組「経世済民オイコノミア」では司会をつとめる。著書に『お金のむこうに人がいる』(ダイヤモンド社)、『高等学校教科書 公共』(教育図書、共著)がある。
https://note.com/mnbtauchi

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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