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国債1千兆円でも大丈夫なのか(上) 「誰に働いてもらうか」を補助線にして考える

問題を解決するのは「お金自体」ではない

田内学 お金の向こう研究所代表

生産力の欠乏した国が経済破綻する ハイパーインフレが生まれる理由

 過去に財政破綻した国、経済が破綻した国を見ていくと、いずれも生産力が足りなかったことがわかる。

拡大ギリシャ危機でユーロ離脱が噂され、預金を引き出すためにATMの前で行列をつくる人たち=2015年6月、アテネ

 記憶に新しいのはギリシャだろう。ギリシャは厳密には財政破綻していないが、2010年の欧州債務危機で、他のEU諸国に支援を受けることになった。ギリシャは財政赤字だけでなく、経常赤字も膨らませていた。

 アルゼンチンもデフォルト(債務不履行)を起こしている。そもそも政府が外貨建て国債を発行したのは、外貨によって国外の生産力に頼るためだ。当然、調達した外貨は国外に流れていく。返済するためには、将来世代は外貨を稼ぐ必要があるが、そのための十分な生産力が存在しなかった。デフォルトしたアルゼンチンは信認を失い、為替レートも暴落した。自国通貨が安くなると購買力が低下し、外国から必要な物資を買えなくなる。

 第1次世界大戦後のドイツ、終戦直後の日本では、ハイパーインフレによって経済が破綻した。どちらも紙幣や国債を大量に発行したせいだと言われるが、本質的な原因は生産力が足りなくなったことにある。

 ドイツは戦後賠償金を支払うために、大量のマルク紙幣(当時のドイツの紙幣)を発行して外貨を購入した。外国に流れたマルク紙幣が使用されると、ドイツ国内の生産力は、外国のために使われる。その結果、ドイツ国内の需要に生産力が追いつかなくなり、ハイパーインフレが起きた。

 終戦直後の日本も同じだ。大量の国債を発行し、軍人の退職金、賠償金、戦後処理費などにあてた。このうちの戦後処理費は、日本国内で活動するGHQに支払われ、彼らの兵舎の建設や食糧などの生活必需品などの調達に使われた。その額は国家予算の3分の1にものぼる。つまり、戦争被害でただでさえ減退していた生産力の多くがGHQに使われたのだ。物資がますます欠乏し、ハイパーインフレが起きたのは必然だ。

 ここで、国債発行ではなく増税によって賠償金や戦後処理費を支払っていても、経済は破綻していたはずだ。財源が何であれ、外国のために働かないといけないのだから、国内の生産力はいずれにしても欠乏する。

 こうして考えると、財政破綻したケースも、ハイパーインフレによって経済が破綻したケースも、生産力が欠乏したことが根本的な原因だったことがわかる。

 とはいえ、生産力が不足すれば必ずしも経済が破綻するというわけではない。アメリカのように、莫大な経常赤字を抱えていても(生産力以上に消費していても)、世界から投資マネーが集まる場合があるからだ(アメリカの場合はドルが基軸通貨であることも影響している)。

 ここまで、財政問題の考え方の大枠を話してきた。「誰が働いているのか」という視点が重要であり、経済破綻の根本的な原因は生産力にあるのだ。

 拙著『お金のむこうに人がいる』で伝えているのは、まさにこの点だ。お金自体が問題を解決するのではなく、お金を受け取った誰かが問題解決をしている。このことを忘れると、財政問題の本質を見失う。

 後半の次回は、冒頭にもあげた日本の財政問題に関する見解の違いについて考えていく。重要なのは、“財政”破綻するかどうかではない。“経済”破綻を避けることだ。

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筆者

田内学

田内学(たうち・まなぶ) お金の向こう研究所代表

1978年生まれ。東京大学入学後プログラミングにはまり、国際大学対抗プログラミングコンテストアジア大会入賞。 同大学院情報理工学系研究科修士課程修了。 2003年ゴールドマン・サックス証券株式会社入社。以後16年間、日本国債、円金利デリバティブ、長期為替などのトレーディングに従事。日銀による金利指標改革にも携わる。 2019年退職。現在は金融教育や政策提言などの活動を行なっている 著書に『お金のむこうに人がいる』(ダイヤモンド社)、『高等学校教科書 公共』(教育図書、共著)がある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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