メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

国債1千兆円でも大丈夫なのか(下) 日本人は怠惰な古代ローマ人と同じ?

財政は破綻しなくても経済は破綻する

田内学 お金の向こう研究所代表

貿易赤字国に転落した日本

 かつては、“メイドインジャパン”が世界中でもてはやされ、日本が貿易黒字国の代名詞だった時代は今となっては昔のこと。現在の日本の貿易収支は赤字に転じている。投資収益を含めた年間の経常収支はまだ黒字を保っているが、今年1月単月では赤字に転落した。

拡大

 そして、2月のロシアのウクライナ侵攻以降、円安が続いている。自国通貨の価値が下がっている意味を真剣に考えないと、取り返しのつかないことになる。

 現在の円安が示しているのは、外国が日本円を欲しがらなくなっているということだ。日本企業が昔のように魅力ある製品を作れなくなっているせいで、円安になっても、海外からの日本製品の購入は増えず、日本への投資も増えない。

 そして同時に、日本はより多くの外貨を必要としている。食料、資源、エネルギーなど、日本が生産を海外に頼っているものの多くが、世界的な供給不足で物価が高騰している。
つまり、外国が日本円を必要としなくなり、日本が外貨を必要としている。その結果として、円安が止まらなくなり、物価高騰に苦しんでいるのが現状だ。

 「日本は需給ギャップが大きく、需要が足りていないのだから、財政出動して需要を作るべきだ」という意見があるが、これは慎重にならないといけない。

 これまで話したように、何でもかんでも国内の生産力が余っているわけではない。生活に必要な食料や資源、エネルギーなどの生産力は余っているどころか、ほとんど海外に頼っている。

 財政出動して使われたお金によって、海外の生産力に頼るのであれば、怠惰なローマ市民と同じことになる。お金はひたすら外国に流れていき、貿易赤字がそのまま増え、更なる円安に拍車をかける。ここでも「誰に働いてもらうのか」が重要なのだ。

拡大労働力人口・就業者数の推移
厚生労働省「令和2年版 厚生労働白書」

 少子化によって生産人口の割合が減っていく日本においては、生産力がさらに不足し、輸入に頼ることも増えるだろう。このまま放置していると、貿易収支だけでなく経常収支においても赤字国に転落し、将来世代は円安によって苦しむことになる。仮に政府が借金を増やさなくてもツケを回すことになるのだ。

 将来世代のことを考えるのならば、闇雲に財政出動するのではなく、新たな輸出産業の育成や少子化対策などにお金を使うべきだろう。

 さて、これまで述べてきたように、国内の生産力が不足することに、経済が破綻する原因がある。「誰が働いているのか」を無視して、政府の財政破綻ばかりにこだわる議論は、本質を見失っていると言っていい。


筆者

田内学

田内学(たうち・まなぶ) お金の向こう研究所代表

1978年生まれ。東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了。国際大学対抗プログラミングコンテスト日本代表。アジア大会入賞。 ゴールドマンサックスで金利トレーダーとして16年勤務。日銀による金利指標改革にも携わる。中央省庁、自民党や議員連盟の各種会議で財政、年金、少子化問題について提言を続ける一方、学校等ではお金の教育や社会科公共の講演を行なっている。インターネット番組「経世済民オイコノミア」では司会をつとめる。著書に『お金のむこうに人がいる』(ダイヤモンド社)、『高等学校教科書 公共』(教育図書、共著)がある。
https://note.com/mnbtauchi

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

田内学の記事

もっと見る