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国債1千兆円でも大丈夫なのか(下) 日本人は怠惰な古代ローマ人と同じ?

財政は破綻しなくても経済は破綻する

田内学 お金の向こう研究所代表

財政破綻と経済破綻は別もの

 「ギリシャが破綻したように、日本も債務残高を増やし続けたら、いつかは財政破綻する」と警告する人がいる。
 「いや、日本は通貨発行権があって一国一通貨だから、財政破綻しない」
と反論する人がいる。

 長年続くこの議論には「誰が働いているのか」という視点が欠けている。この議論を続けていると、目の前にある経済破綻の危機に気づけなくなる。財政破綻と経済破綻は別物だからだ。

拡大財政危機におちいったギリシャはEUやIMFなどの要請で緊縮財政策の採用を決めたが、市民の間からはこれに反対するデモが広がった=2010年5月12日、アテネ

 まずは、この議論のそれぞれの主張の真偽から考えてみよう。

 ギリシャの使うユーロはヨーロッパの多くの国々で使われている通貨だ。一方、日本円は日本だけでしか使われない。

 繰り返しになるが、日本政府が1兆円分の国債を発行して道路を建設した場合、1兆円は働いた人々や企業に流れる。外国企業に流れたとしても、日本円として持ち続ける限り、国内の銀行に留まっている。

 では、銀行はそのお金をどうするのか。日本円の投資先として一番安全なのは日本国債だ。他の投資先に比べて金利が低くても日本国債を購入する。そのため、日本国債の金利は低位安定している。

 ところが、ギリシャの場合はそうは行かなかった。同じくユーロ建てで、財政状況のいいドイツやフランスの国債が存するからだ。ギリシャ危機が起きたとき、財務状況の悪いギリシャがお金を借りるためには、ドイツやフランスよりもずっと高い金利を支払う必要があった。そして、高い金利を支払ったとしても、お金が借りられるとも限らない。ユーロ経済圏でギリシャが財政破綻したのは、日本国内で夕張市が財政破綻したのと等しい。

 また、日本の銀行が金利の高い米国債を買うようになれば、日本国債が買われなくなり、財政破綻するという意見もある。一見すると正しそうだが、お金の流れを丁寧に追っていけば、おかしな話だと気づく。

拡大is.a.bella/shutterstock.com

 たとえば、A銀行が130億円支払って1億ドル分の米国債を買おうとしよう(1ドル=130円とする)。このとき、130億円がA銀行の金庫からアメリカに運ばれるわけではない。まず為替取引を行う。A銀行はB銀行との為替取引で1億ドルを購入して、そのお金で米国債を買うのだ。

 この為替取引をするとき、日本では、A銀行の口座から130億円がB銀行の口座に移り、アメリカでは、B銀行の口座から1億ドルがA銀行の口座に移る。

 A銀行が米国債を買うことによって、A銀行の保有する円は当然130億円減り、日本国債を購入できなくなる。しかし、同時にB銀行の保有する円が130億円増えており、その分だけ日本国債を購入することができる。

 つまり、米国債を購入しても、日本国債を購入するお金が日本から消えるわけではないのだ。

 このように考えると、「日本は通貨発行権があって一国一通貨だから、財政破綻しない」というのは正しそうだ。

 だが、大事なのはここからだ。

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筆者

田内学

田内学(たうち・まなぶ) お金の向こう研究所代表

1978年生まれ。東京大学入学後プログラミングにはまり、国際大学対抗プログラミングコンテストアジア大会入賞。 同大学院情報理工学系研究科修士課程修了。 2003年ゴールドマン・サックス証券株式会社入社。以後16年間、日本国債、円金利デリバティブ、長期為替などのトレーディングに従事。日銀による金利指標改革にも携わる。 2019年退職。現在は金融教育や政策提言などの活動を行なっている 著書に『お金のむこうに人がいる』(ダイヤモンド社)、『高等学校教科書 公共』(教育図書、共著)がある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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