簡単なことのはずですが……それでもできないのはなぜ?
2022年06月29日
2020年の食料自給率は37%である。2000年から20年以上も45%に引き上げる目標を掲げているにもかかわらず、当初の40%から逆に減り続けてきた。現在ロシアのウクライナ侵攻などによって小麦の国際価格が上昇し、世界的な食料危機が叫ばれている。日本国内では低い食料自給率が問題となっている。農業界は、ここぞとばかり国産振興のための対策を充実させるべきだと主張し、自民党も麦、大豆、エサ米の生産増加の対策を講じるとしている。
しかし、農林水産省を始め農業界は、この20年間何をやってきたのだろうか? 麦、大豆、エサ米の生産振興のために、既に大きな財政支出をしてきたのではないだろうか?
1970年以降、過剰となった米から麦や大豆などに転作して食料自給率を向上させるという名目で、自民党政府は膨大な国費を投入してきた。現在毎年約2300億円かけて作っている麦や大豆は130万トンにも満たない。同じ金で1年分の消費量に相当する小麦約700万トンを輸入できる。エサ米生産66万トンにかかる950億円の財政負担で約400万トンのトウモロコシを輸入できる。
しかも、この生産を維持するためには、毎年同額の財政支出が必要である。仮に10年後に危機が発生するまで継続すると、3兆3千億円の財政負担となる。これで6年分の小麦やトウモロコシを輸入できる。安い費用でより多くの食料を輸入・備蓄できる。アメリカ産に比べ、国産の小麦等は価格・コストが高いうえ、品質も良くない。国産の戦闘機が極めて高性能であればともかく、数倍の費用がかかってもアメリカ製よりも性能が劣る国産の戦闘機を購入すべきだと言う人はいないはずだ。
なにより、多額の財政負担を行ってきても、これらの政策の効果がなかったことは、食料自給率の低下が物語っている。
より重大な問題は、農林水産省、JA農協や農林族議員という農政トライアングルが進めてきた政策こそが、食料自給率が低下させた原因だったことである。かれらは、食料自給率向上を唱えながら、それを下げる政策を採り続けてきたのである。それが高米価・減反政策、低麦価・輸入麦優遇政策である。
1960年には79%あった自給率の低下は、食生活の洋風化のためだというのが、農林水産省や農業経済学者の見解である。しかし、米の需要が減少し、パン食など麦の需要が増加することは予想されていた。米と麦の消費には代替性がある。本来ならば、米価を下げて、米の生産を抑制しながら需要を拡大し、麦価を上げて、麦の生産を増加させながら需要を抑制するという政策が、採用されるべきだった。
しかし、その逆の高米価・低麦価政策が実施された。米価は麦価の3~4倍に引き上げられた。高米価で生産が拡大する一方で消費が減少した米は過剰となり、減反で米生産は縮小された。主食用の米生産は1967~68年の1445万トンから700万トンまで半減した。逆に、米に比べ価格面で有利となった麦の消費量は、1960年の600万トンから今では850万トンに増加した。しかも、低麦価で国産麦の生産が減少したため、麦供給の9割はアメリカ、カナダ、オーストラリアからの輸入麦となっている。麦生産は激減し、麦の消費増を輸入の増加が埋めているのだ。米麦を通じると、国産の米を減少させて、輸入麦を増加させてきたのだ。食料自給率低下は当然だろう。
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