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「新しい資本主義」は今のところ「修正版アベノミクス」に過ぎない

自己責任社会を改めず、格差拡大と環境破壊を放置するなら、看板を下ろすべきだ

田中信一郎 千葉商科大学基盤教育機構准教授

「新しい資本主義」の意味を問うメディア

 岸田文雄首相が政権の基本理念として打ち出した「新しい資本主義」について、意味不明との声がメディアからたびたび示されている。例えば『朝日新聞』は、次のように複数回の「社説」でそうした意見を表明している。

肝いりの「新しい資本主義」の具体像は見えず(2021年10月9日社説)

首相は「新しい資本主義」や「デジタル田園都市国家構想」など、大きなビジョンを掲げているが、今のところ、スローガンの域を脱していないと言わざるを得ない。(2021年11月11日社説)

首相肝いりの「新しい資本主義」が何なのかは、きのうの演説を聞いても、いまだ腑(ふ)に落ちない。(2022年1月18日社説)

今国会の論戦が本格化しているが、岸田首相の看板政策「新しい資本主義」は一向に具体像を結ばない。(2022年2月7日社説)

首相の看板である「新しい資本主義」は、いまだその具体像が明らかではない。(2022年4月8日社説)

岸田首相はもう「新しい資本主義」の看板を下ろしてはどうか。(2022年6月1日社説)

看板政策の「新しい資本主義」については、今月になってようやく実行計画を閣議決定したが、当初の「分配強化」の理念は消え、過去の政権が示した成長戦略の焼き直しに終わった。(2022年6月22日社説)

 以上のとおり、朝日新聞の社説からは「新しい資本主義」について「意味がよく分からない」といういら立ちが伝わってくる。政権発足から半年以上が過ぎても、政治をウオッチしている新聞記者にすら考え方が理解されていないことは明らかだ。記者(メディアの伝え手)が理解しないものを、読者(メディアの受け手)が理解できるわけはない。

 問題は、岸田首相に伝える気がない(あるいは中身がない)のか、それとも記者(メディア)に理解する気がない(あるいは能力がない)のか、である。そこで、岸田首相の「新しい資本主義」が何を意味するのか、探っていく。

自民党総裁選に立候補を表明し、「令和版所得倍増」政策案を発表した時の岸田文雄氏=2021年9月8日、国会内拡大自民党総裁選に立候補を表明し、「令和版所得倍増」政策案を発表した時の岸田文雄氏=2021年9月8日、国会内

「古い資本主義」とは「新自由主義」のこと

 まずは、岸田首相が「古い資本主義」をどのように認識しているのか、確認しよう。「新しい資本主義」ということは、当然のことながら「古い資本主義」が認識の中に存在するはずだ。それがわからなければ、どこがどのように「新しい」のか分からない。岸田首相は、最初の通常国会における施政方針演説で次のように述べている。

 市場に依存し過ぎたことで公平な分配が行われず生じた、格差や貧困の拡大。市場や競争の効率性を重視し過ぎたことによる、中長期的投資の不足、そして持続可能性の喪失。行き過ぎた集中によって生じた、都市と地方の格差。自然に負荷をかけ過ぎたことによって深刻化した、気候変動問題。分厚い中間層の衰退がもたらした、健全な民主主義の危機。世界でこうした問題への危機感が高まっていることを背景に、市場に任せれば全てが上手くいくという新自由主義的な考え方が生んだ様々な弊害を乗り越え、持続可能な経済社会の実現に向けた、歴史的スケールでの経済社会変革の動きが始まっています。私は、成長と分配の好循環による新しい資本主義によって、この世界の動きを主導していきます。(2022年1月17日衆議院本会議)

 このように、岸田首相は「新自由主義」を「古い資本主義」と認識している。新自由主義の経済政策方針を改め、異なる経済政策方針を採用すると述べている。

 そして、新自由主義について「市場に任せれば全てが上手くいく」との考え方という認識も示している。具体的には、新自由主義について「市場原理あるいは競争原理、優勝劣敗、こうした考え方に偏重した」(2021年10月13日参議院本会議)との見方を示している。

 新自由主義への評価について、経済成長の原動力となった反面、弊害を生んだと、岸田首相は述べている。功罪両面あったとの認識である。

 一九八〇年代以降、世界の主流となった、市場や競争に任せればうまくいくという新自由主義的な考え方、これは世界経済、そして日本経済の成長の原動力となったということは評価されるわけですが、その一方で、格差、貧困、また気候変動、こうした多くの弊害も生んだという評価があります。(2021年12月13日衆議院予算委員会)

 それでは「資本主義」そのものについて、岸田首相はどのように認識しているのか。

 資本主義ですので、市場や競争、これは基本であるということ、これはこれからも変わらないと思っています。その市場や競争を通じて、経済社会に効率性、あるいは起業家精神、あるいは活力、こうした成長の原動力をもたらす、これが資本主義における大きな長所であると思っています。(2022年2月18日衆議院予算委員会)

 以上のとおり、岸田首相は「市場と競争による経済成長」を資本主義の特徴と認識している。前述したように、経済成長の原動力については、新自由主義についても功績として評価している。

 よって、岸田首相が認識する「古い資本主義」とは「市場と競争による経済成長を徹底追求する経済のあり方」ということになる。新自由主義の定義は、論者によって幅をもつが、岸田首相の認識はその最大公約数的な認識といってもいい。新自由主義を改め、別の経済のあり方を目指すというわけである。

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筆者

田中信一郎

田中信一郎(たなか・しんいちろう) 千葉商科大学基盤教育機構准教授

博士(政治学)。国会議員政策担当秘書、明治大学政治経済学部専任助手、横浜市地球温暖化対策事業本部政策調査役、内閣府行政刷新会議事務局上席政策調査員、内閣官房国家戦略室上席政策調査員、長野県企画振興部総合政策課・環境部環境エネルギー課企画幹、自然エネルギー財団特任研究員等を経て、現在に至る。著書に『政権交代が必要なのは、総理が嫌いだからじゃない』『信州はエネルギーシフトする』、共著に『国民のためのエネルギー原論』『再生可能エネルギー開発・運用にかかわる法規と実務ハンドブック』などがある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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