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「新しい資本主義」は今のところ「修正版アベノミクス」に過ぎない

自己責任社会を改めず、格差拡大と環境破壊を放置するなら、看板を下ろすべきだ

田中信一郎 千葉商科大学基盤教育機構准教授

「新しい資本主義」と「古い資本主義」どこが違うのか

 岸田首相は「古い資本主義」と「新しい資本主義」の違いについて、次のように説明している。

 市場や競争に任せず、市場の失敗や外部不経済を是正する仕組みを成長戦略と分配戦略の両面から資本主義の中に埋め込み、資本主義がもたらす便益を最大化しようとする新しい資本主義を進めております。(2021年12月21日参議院本会議)

 要するに、岸田首相の「新しい資本主義」とは「市場の失敗や外部不経済の発生を抑制するメカニズムをもつ経済のあり方」となる。「古い資本主義」の認識が「市場と競争による経済成長を徹底追求する経済のあり方」であることから、経済成長を徹底追及するのでなく、経済成長を犠牲にしてでも外部不経済等の発生を抑制する方針となる。なお、外部不経済とは、経済活動に伴って発生する社会や環境等への悪影響のことである。

 確かに、この考え方は従来の新自由主義と異なる「新しい」経済のあり方であり、画期的な経済政策の方針である。「脱成長論」とまでは言えないものの、池田勇人首相の「所得倍増計画」以降の過去60年の経済政策を大転換するものとなる。なぜならば、経済政策の第一目標を経済成長から外部不経済の抑制に変更するからである。

 しかし、岸田首相は、これと矛盾する認識を次のように強調している。

 私が掲げる新しい資本主義も、まずは成長だと申し上げています。経済成長を実現しなければ、分配の原資はありません。(2022年1月20日衆議院本会議)

 経済成長を第一目標とする経済のあり方は、外部不経済の抑制を第一目標とする経済のあり方と矛盾する。なぜならば、格差の拡大や環境の破壊という外部不経済は、経済成長のためにやむを得ないものとして是認されてきたからである。

 岸田首相は、それらが矛盾しないとして、この発言に続いて次のように述べている。

 その際、市場や競争に全てを任せるのではなく、官と民が協働して、成長と分配の好循環を生み出していきます。市場の失敗、外部不経済を是正する仕組みを成長戦略と分配戦略の両面から資本主義の中に埋め込み、そうした課題を解決しながら、成長と分配の好循環を生み出していきたいと考えます。(2022年1月20日衆議院本会議)

 岸田首相の言うように、経済成長と外部不経済の抑制を両立させることは可能だが、経済成長を優先させるならば、両立は不可能となる。なぜならば、現在の経済システムは外部不経済の発生を前提としているため、外部不経済の抑制を経済システムに埋め込めば、必ず一定の転換コストを要し、それが経済成長を抑制するからである。

 もちろん、スムーズな転換に成功すればしばらく後に再び経済成長すると考えられる。けれども、スムーズな転換に成功するとは限らず、少なくとも新自由主義に適合させてきた日本経済のアドバンテージを失うことは間違いない。

骨太の方針を決めた経済財政諮問会議・新しい資本主義実現会議合同会議で、発言する岸田文雄首相(左から2人目)=2022年6月7日、首相官邸拡大骨太の方針を決めた経済財政諮問会議・新しい資本主義実現会議合同会議で、発言する岸田文雄首相(左から2人目)=2022年6月7日、首相官邸

 つまり、岸田首相の「新しい資本主義」が分かりにくいのは、このジレンマを内包しているからである。経済成長を最優先するならば、外部不経済の抑制は二の次となり、外部不経済の抑制を最優先するならば、経済成長は二の次となるというジレンマである。外部不経済の抑制を第一目標、経済成長を第二目標として両立させることはできるが、岸田首相は経済成長を第一目標と述べているので、矛盾となる。

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筆者

田中信一郎

田中信一郎(たなか・しんいちろう) 千葉商科大学基盤教育機構准教授

博士(政治学)。国会議員政策担当秘書、明治大学政治経済学部専任助手、横浜市地球温暖化対策事業本部政策調査役、内閣府行政刷新会議事務局上席政策調査員、内閣官房国家戦略室上席政策調査員、長野県企画振興部総合政策課・環境部環境エネルギー課企画幹、自然エネルギー財団特任研究員等を経て、現在に至る。著書に『政権交代が必要なのは、総理が嫌いだからじゃない』『信州はエネルギーシフトする』、共著に『国民のためのエネルギー原論』『再生可能エネルギー開発・運用にかかわる法規と実務ハンドブック』などがある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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