小此木潔(おこのぎ・きよし) ジャーナリスト、元上智大学教授
群馬県生まれ。1975年朝日新聞入社。経済部員、ニューヨーク支局員などを経て、論説委員、編集委員を務めた。2014~22年3月、上智大学教授(政策ジャーナリズム論)。著書に『財政構造改革』『消費税をどうするか』(いずれも岩波新書)、『デフレ論争のABC』(岩波ブックレット)など。監訳書に『危機と決断―バーナンキ回顧録』(角川書店)。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
社会保障のためのはずが借金返済に、やがて防衛費の財源にも?
消費税は社会保障の貴重な財源。だから減税など論外だ――。消費減税を求める野党に向かって、自民党はこんな論法で反論している。テレビ討論では予想外のヒートアップ場面も見られ、消費税の抱える矛盾も浮かびあがった。野党がこぞって求めた消費税の減税は今後もくすぶり続けるだろうし、「社会保障の財源だから手を付けるな」という論法は、やがてブーメランのように戻ってきて自民党を苦しめるはずだ。
東京・内幸町の日本記者クラブで6月21日に開かれた恒例の党首討論の席上、岸田文雄首相は、消費税の減税を求める野党の主張を真っ向から否定して、次のように述べた。
「消費税は、社会保障の安定財源と位置付けられています。これは法律上、社会保障目的税として位置づけられていますし、事実この10年間で社会保障費は2割増加しているということを考えれば、消費税減税については考えません」
6月26日にはNHK『日曜討論』で、物価高対策として消費税の減税をと迫る野党幹事長・書記局長らに向かって茂木敏充・自民党幹事長が、まるで野党や国民を脅すかのような言い回しで、次のように述べた。
「みなさんからお預かりしている消費税は年金、介護、医療そして子育て支援、社会保障の大切な財源です。野党のみなさんがおっしゃるように下げるとなると、年金財源は3割カットしなくてはなりません」
これには共産党の小池晃書記局長が「大企業と富裕層の減税を見直せばいいんですよ」と反論。茂木氏が野党案を批判する材料として年金カットを持ち出したことに対する批判がネットで噴出した。
NHK『日曜討論』では1週間前の6月19日にも、高市早苗・自民党政調会長が、れいわ新選組の大石晃子政策審議会長に向かって、次のように述べたことがネットで批判を浴びていた。
「れいわ新選組のほうから、消費税が法人税の引き下げに流用されているかのような発言がこの間から何度かありました。これはもう、全く事実無根でございます。まず消費税法第一条を読んでいただきたいと思いますが、消費税の使途というのは年金、医療、介護、子育ての社会保障に限定されて使われます。地方分の消費税も地方税法によりまして社会保障にしか使えないことになっておりますので、でたらめを公共の電波で言うのはやめていただきたいと思います」