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「年金3割カット」発言も、野党の消費減税案に自民党幹部はなぜいきりたつのか

社会保障のためのはずが借金返済に、やがて防衛費の財源にも?

小此木潔 ジャーナリスト、元上智大学教授

 消費税は社会保障の貴重な財源。だから減税など論外だ――。消費減税を求める野党に向かって、自民党はこんな論法で反論している。テレビ討論では予想外のヒートアップ場面も見られ、消費税の抱える矛盾も浮かびあがった。野党がこぞって求めた消費税の減税は今後もくすぶり続けるだろうし、「社会保障の財源だから手を付けるな」という論法は、やがてブーメランのように戻ってきて自民党を苦しめるはずだ。

「年金3割カット」の茂木発言

参院選に向けて開かれた党首討論=2022年6月21日、日本本記者クラブ

 東京・内幸町の日本記者クラブで6月21日に開かれた恒例の党首討論の席上、岸田文雄首相は、消費税の減税を求める野党の主張を真っ向から否定して、次のように述べた。

 「消費税は、社会保障の安定財源と位置付けられています。これは法律上、社会保障目的税として位置づけられていますし、事実この10年間で社会保障費は2割増加しているということを考えれば、消費税減税については考えません」

 6月26日にはNHK『日曜討論』で、物価高対策として消費税の減税をと迫る野党幹事長・書記局長らに向かって茂木敏充・自民党幹事長が、まるで野党や国民を脅すかのような言い回しで、次のように述べた。

 「みなさんからお預かりしている消費税は年金、介護、医療そして子育て支援、社会保障の大切な財源です。野党のみなさんがおっしゃるように下げるとなると、年金財源は3割カットしなくてはなりません」

 これには共産党の小池晃書記局長が「大企業と富裕層の減税を見直せばいいんですよ」と反論。茂木氏が野党案を批判する材料として年金カットを持ち出したことに対する批判がネットで噴出した。

 NHK『日曜討論』では1週間前の6月19日にも、高市早苗・自民党政調会長が、れいわ新選組の大石晃子政策審議会長に向かって、次のように述べたことがネットで批判を浴びていた。

 「れいわ新選組のほうから、消費税が法人税の引き下げに流用されているかのような発言がこの間から何度かありました。これはもう、全く事実無根でございます。まず消費税法第一条を読んでいただきたいと思いますが、消費税の使途というのは年金、医療、介護、子育ての社会保障に限定されて使われます。地方分の消費税も地方税法によりまして社会保障にしか使えないことになっておりますので、でたらめを公共の電波で言うのはやめていただきたいと思います」

消費税、本来の役割と実態は矛盾する?

 穏やかな口調の岸田氏に比べると茂木氏や高市氏が刺激的な表現で消費税の減税を否定する背景には、参院選で消費税の減税または廃止を求める公約を野党がこぞって打ち出しているという事情がある。

消費税についての各党の立ち位置(公約などによる)
 ロシアによるウクライナ侵略を契機に拍車がかかった世界的な食糧・エネルギー価格高騰が影を落とし、有効な物価対策がない中で選挙の争点としてこれまでになく重視される可能性もあるとみて、神経をとがらせているのだろう。

 野党は攻勢に出ていて、高市氏がいきり立ったきっかけも、大石氏の次のような厳しい指摘だった。

 「消費税廃止または減税、すぐやったらいいじゃないですか。でも岸田政権は国会で1%たりとも消費税減税しない、とドヤ顔で言い放ったんです。でも、おかしいじゃないですか。数十年にわたり法人税は減税、お金持ちはさんざん優遇してきたのに消費税減税だけはしませんって。自公政権は鬼であり、資本家の犬と言わざるを得ません。だから有権者の皆さんに立ち上がっていただく。これが参院選の争点だと考えます」

 高市氏の反撃に対して大石氏は発言しようとして左手を挙げたが指名されず、このやり取りが途切れてしまったのは残念だった。

 財務省のホームページに掲載されている税収の推移をみれば、法人税や所得税の減税による税収の減少を消費税の導入や増税で補ってきたという事実は否定できない。だから大石氏の発言は、でたらめではなく、むしろ消費税導入以来の新自由主義的な税制改革の問題点を鋭く突いているというべきものだ。

 もっとも、高市氏が言うように、消費税法が税収の使途を社会保障分野に限定していることも事実であり、この点では高市氏もでたらめを言っているわけではない。

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