小此木潔(おこのぎ・きよし) ジャーナリスト、元上智大学教授
群馬県生まれ。1975年朝日新聞入社。経済部員、ニューヨーク支局員などを経て、論説委員、編集委員を務めた。2014~22年3月、上智大学教授(政策ジャーナリズム論)。著書に『財政構造改革』『消費税をどうするか』(いずれも岩波新書)、『デフレ論争のABC』(岩波ブックレット)など。監訳書に『危機と決断―バーナンキ回顧録』(角川書店)。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
社会保障のためのはずが借金返済に、やがて防衛費の財源にも?
穏やかな口調の岸田氏に比べると茂木氏や高市氏が刺激的な表現で消費税の減税を否定する背景には、参院選で消費税の減税または廃止を求める公約を野党がこぞって打ち出しているという事情がある。
ロシアによるウクライナ侵略を契機に拍車がかかった世界的な食糧・エネルギー価格高騰が影を落とし、有効な物価対策がない中で選挙の争点としてこれまでになく重視される可能性もあるとみて、神経をとがらせているのだろう。
野党は攻勢に出ていて、高市氏がいきり立ったきっかけも、大石氏の次のような厳しい指摘だった。
「消費税廃止または減税、すぐやったらいいじゃないですか。でも岸田政権は国会で1%たりとも消費税減税しない、とドヤ顔で言い放ったんです。でも、おかしいじゃないですか。数十年にわたり法人税は減税、お金持ちはさんざん優遇してきたのに消費税減税だけはしませんって。自公政権は鬼であり、資本家の犬と言わざるを得ません。だから有権者の皆さんに立ち上がっていただく。これが参院選の争点だと考えます」
高市氏の反撃に対して大石氏は発言しようとして左手を挙げたが指名されず、このやり取りが途切れてしまったのは残念だった。
財務省のホームページに掲載されている税収の推移をみれば、法人税や所得税の減税による税収の減少を消費税の導入や増税で補ってきたという事実は否定できない。だから大石氏の発言は、でたらめではなく、むしろ消費税導入以来の新自由主義的な税制改革の問題点を鋭く突いているというべきものだ。
もっとも、高市氏が言うように、消費税法が税収の使途を社会保障分野に限定していることも事実であり、この点では高市氏もでたらめを言っているわけではない。