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与野党ともに、アベノミクスの呪縛を打ち破る責任感ある政治家はいない

官製株価とマイナス金利による「異常な均衡」が続く

原真人 朝日新聞 編集委員

参院選の投開票日が近づいています。今回の選挙戦で争点となっているテーマについて、過去記事の中から選んであらためて掲載します。(編集部)

(オリジナル記事は2021年09月11日公開)

 自民党総裁選に向けてポスト菅をめざす顔ぶれが出そろいつつある。総裁選やその後に控える衆院選では新型コロナ対策が最大の論点となるだろう。ただ、国家運営の将来にかかわる重要テーマはほかにもある。安倍・菅両政権下で進められてきた放漫な財政・金融政策もその一つだ。日本銀行に国債を買い支えさせることによって保たれてきた国家財政を続けていてよいのか。「現代の錬金術」であるアベノミクス体制の継続は是か非か。その観点から総裁候補の評価と展望をしてみたい。

「輪転機ぐるぐる」から「紙とインクでお札」に

 どうやら今でも総裁選の影の主役は安倍晋三・前首相のようだ。党内実力者として候補者選びに影響力を及ぼしているのはもちろんだが、それだけではない。「第3次安倍政権」待望論も党内にはくすぶっているからだ。

 安倍氏はこのところ地方遊説で再びアベノミクスの宣伝活動に乗り出している。この夏におこなった講演は、9年前に民主党政権から政権を奪還したころの演説をほうふつとさせるものがある。安倍氏は、安倍政権や菅政権が昨年度、コロナ対策の財源捻出のために100兆円を超える国債を発行したことについてこう述べている。

 「子どもたちの世代にツケを回すなという批判がずっと安倍政権にあったが、その批判は正しくない。なぜかというとコロナ対策においては政府・日本銀行連合軍でやっていますが、政府が発行する国債は日銀がほぼ全部買い取ってくれています。みなさん、どうやって日銀は政府が出す巨大な国債を買うと思います? どこかのお金を借りてくると思ってますか。それは違います。紙とインクでお札を刷るんです。20円(のコスト)で1万円札が出来るんです」

 熱弁に会場がどっとわくと、安倍氏はこうたたみかけた。

 「日銀というのは政府の、言ってみれば子会社の関係にある。連結決算上は実は政府の債務にもならないんです。だから孫や子の代にツケを回すな、これは正しくありません。私はいまの状況であれば、もう1回、もう2回でもいい。大きな(コロナ対策予算の)ショットを出して国民生活を支えていく。大きな対策が必要だと思います」

経済財政諮問会議であいさつする安倍晋三首相。右端は黒田東彦・日銀総裁=2014年1月20日、首相官邸拡大経済財政諮問会議であいさつする安倍晋三首相。右端は黒田東彦・日銀総裁=2014年1月20日、首相官邸

 9年前、総選挙を前に当時自民党総裁だった安倍氏は「輪転機をぐるぐる回して日本銀行に無制限にお札を刷ってもらう」と演説した。私はそれを知り、政府がタブーとしてきた日本銀行による財政ファイナンス(財政赤字の穴埋め)を、自民党総裁が堂々と提唱したことに大きなショックを覚えた。

 のちにアベノミクスと呼ばれるようになるこの経済政策論はしかし、現実となった。日銀は400兆円近い国債を買い上げ、政府は今も営々と借金財政を膨張させている。そこからの出口論が政府・日銀で表だって語られることはない。アベノミクスは政府財政を「健全化」のくびきから完全に解いてしまったのである。


筆者

原真人

原真人(はら・まこと) 朝日新聞 編集委員

1988年に朝日新聞社に入社。経済部デスク、論説委員、書評委員、朝刊の当番編集長などを経て、現在は経済分野を担当する編集委員。コラム「多事奏論」を執筆中。著書に『日本銀行「失敗の本質」』(小学館新書)、『日本「一発屋」論 バブル・成長信仰・アベノミクス』(朝日新書)、『経済ニュースの裏読み深読み』(朝日新聞出版)。共著に『失われた〈20年〉』(岩波書店)、「不安大国ニッポン」(朝日新聞出版)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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