米価下落の要因「米余り」を考える
2022年07月08日
輸入小麦は中国の飼料用需給の増大や北米産の不作、ウクライナ侵攻の影響によって価格が上昇している。一方で、年々減少傾向だった国産米の価格は、新型コロナウイルスの影響を受けて令和3(2021)年度産米が大幅に下落した。
米価が安い要因は、何と言っても「米余り」。農水省の資料によると、近年ではお米の需用量が毎年ざっくり10万トンずつ減り続けている。あまりにも大きな数字でイメージしづらいが、岐阜県全体の主食用米の生産量に値する量(令和3〈2021〉年度産は9万8900トン・農水省「作物統計調査 作況調査」)よりも多いお米が毎年食べられなくなっている……と考えると、その深刻さを感じることができる。
さらに、新型コロナウイルス感染拡大の影響はお米の消費減に追い打ちをかけた。原因は、飲食店の休業や時短営業や客数減。外食需要が減った分、家庭での需要が増えればプラスマイナスゼロ……という単純な話でもない。家庭の需要が外食需要の減少分を補填できない原因は、「飲食店の廃棄ロス分が減ったことも要因」という衝撃的な話をある米屋から聞いたが、自宅での炊飯が手間だと感じる人が多いことも理由の一つだ。
最近では電子レンジなどで温めて食べられる手軽さから「パックごはん(無菌化包装米飯)」が生産量を伸ばしている。農水省の「食品産業動態調査」によると、2021年の生産量は20万6179トンで、1999年の5万3970トンから4倍近くに増えた。かつては災害時の非常食のイメージがあったが、今では日常食として買う人も珍しくない。
パックごはんは、ほとんどの商品が電子レンジで2分ほど加熱するだけで食べられる。本来は長時間の浸漬(しん・し)が必要な玄米や赤飯のパックごはん商品もあり、同様に2分ほどの加熱で食べられてしまうのだから、たしかに便利だ。
さらに、近年では冷凍おむすびのネット販売に取り組むおむすび屋が増えている。シンプルな塩むすびから、味付けや具材に凝ったものまで、さまざまだ。商品によって違うが、これも電子レンジで1個1分30秒ほど加熱すれば食べられる。解凍しやすいように小さめサイズが多いので、軽めの朝食やおやつなどに向いている。
しかしながら、パックごはんも冷凍おむすびも、お米を買って自宅で炊飯する場合と比べると、価格が高い。それでも、お米を計量して、洗って、浸漬して、炊くといった一連の炊飯作業から免れるならば高くないと感じる人が多いのだろう。
以前に都内の商店街にあったおむすび屋で開かれたイベントでおむすびを作った際、高齢の女性客が「おむすびじゃなくて白いごはんを買いたい」と注文してきた。昼食のおかずはあるが、帰宅後に「夫と2人分のごはんをちょっとだけ炊くのが面倒」なのだという。そこで、おむすび数個分の量のごはんをパックに詰めて販売した。さまざまな産地や品種や生産者のお米を炊いた白飯を好きなグラムだけ購入できる“白飯屋”があったらもしかしたら需要がある時代なのかもしれない。
別のあるおむすび屋では、毎週決まった曜日に同じおむすびをまとめ買いしていく客がいるそうだ。おそらく、自宅で冷凍しておいて、冷凍おむすびのように電子レンジ解凍して食べているのではないか、とのことだった。たとえ炊飯を手間と感じなくても、「炊いたごはんを食べきれない」という理由でパックごはんや冷凍おむすびなどを利用する人もいる。「ほかほかごはん」が必ずしも「炊きたてごはん」ではない時代もやってくるかもしれない。
もちろん、特に味付けや具材に凝った冷凍おむすびなどは「おいしいから」という理由で購入する人もいるが、主食の多様化が進んだと言っても「米離れ」は必ずしもお米が好まれなくなったわけではなく、「炊飯離れ」の要素が大きいと感じる。
「食習慣」と言うように、何を食べるかは日頃の習慣によっても決まる。子どもの時からお米を食べる習慣があれば、お米が主食の食卓が当たり前になっていくだろうし、パンを食べる習慣があれば、パンが主食の食卓が当たり前になっていくだろう。そして、炊飯の習慣がある人にとって炊飯は生活の一部となっているし、パンを焼く習慣がある人にとってパン作りは生活の一部となっている。習慣があるかないかで、その行為のハードルの高さは変わってくる。いくら炊飯器が進化しようとも、
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