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外国人の農地取得は問題なのか?

冷静に考えてみよう 誰が農地の減少と荒廃をもたらしてきたのか

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 経済ニュースのTV出演を依頼された。あいにくアメリカに出張中なので断ったが、外国人、特に中国人の農地取得を食料安全保障の観点から問題視するという趣旨のものだった。私も、このような意見に同調するよう期待されていたようだった。

空撮(田んぼ)拡大田植えを終えた早朝の水田 raditya/shutterstock

 確かに、外国人が農地を取得すると、食料安全保障上からも必要な農地資源が外国の手に渡るように思われる。農地だけではなく林地も外国人に取得されるのは問題だという意見がある。感覚的には、このような意見や主張は理解できる気がする。

 環太平洋パートナーシップ(TPP)交渉に参加するかどうかが議論されていた時も、アメリカの穀物商社カーギルに日本の農地が買い占められるという主張があった。海外でも、ずいぶん前に、中国人がブラジルなどの農地を買いまくっていることが問題視された。土地を奪い取るという「ランド・グラッブ=land grab」という表現が使われた。

外国人が日本で農業をしてはおかしいのか?

 感覚や感情ではなく、理性的に考えてみよう。まず、外国人が日本の農地を買って農業をすることは、おかしいのだろうか?

 日本の農地のかなりが耕作放棄されている。富山県の面積に匹敵する量だと言われている。耕作放棄の原因は簡単である。農業の収益性が低下しているからである。儲からないから耕作放棄する。儲かるなら耕作放棄などしない。中山間地域の農地に耕作放棄が多いのは、傾斜などで生産条件が不利なところが多いからである。収益とは売上げからコストを引いたものだから、生産条件が悪くてコストが高くなると、収益が減少するので耕作放棄されやすい。

耕作放棄地拡大高齢化日本一といわれる群馬県南牧村で、東京からの移住者が耕作放棄地を耕そうとしていた=2018年12月

 農林水産省は、耕作放棄される理由を高齢化が進んだからだと言う。高齢者なので農地の管理ができなくなっているというのだ。しかし、これは間違いである。収益が低いと後継者もいなくなるので高齢化するし、耕しても利益が出ないので、農地は耕作放棄される。高齢化と耕作放棄は同時並行的に起こるが、両者とも低い収益が原因であって。高齢化が耕作放棄の原因ではない。高齢者でなくても、農地の生産条件が悪くコストが高いと耕作放棄する。逆に、秋田県大潟村のように、20ヘクタールのまとまりのある平らな農地を耕す農家は、大規模農業が展開できるのでコストは低く収益は高い。全戸後継者がいるし、耕作放棄などない。農林水産省の説明は、収益低下の責任をとらされないようにするためのウソである。

農地保全は食料安保からも好ましい

 耕作放棄しているのは日本人である。外国人が耕作放棄された農地で農業を行って、農地を保全してくれることは、食料安全保障上からも好ましいことである。経営者ではないが、野菜や果物など労働が重要な役割を果たす農業は、外国人研修生に依存している。なお、農業労働が少ないことが問題となっているのは、野菜や果物などの農業であって、米などの土地利用型農業では、農家が多すぎることが問題である。

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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