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動画や音声までも対象とする「ファクトチェック自動化」は、フェイクニュースの解決策となるか

YouTubeやTikTokでニュースを知る時代に

小林啓倫 経営コンサルタント

 ヨハネス・グーテンベルクが活版印刷技術を完成させた15世紀中頃。この技術は瞬く間に広がり、欧州各国で印刷所が開設されるようになった。15世紀が終わるまでの半世紀で、およそ4万点もの出版物が刊行されたとの説もある。まだインターネットやグローバル経済のようなネットワークが存在していなかった時代に、たった数十年でまったく新しいテクノロジーがここまで普及するというのは、驚異的と言えるだろう。

 とはいえ、いまや日本だけでも、年間に出版される新刊の数はおよそ7万点にまで達している。これに新聞や雑誌、そしてテレビやラジオなどのマスメディア、さらには当然ながら、インターネットを中心としたデジタルメディアが加わるわけだ。15世紀の活版印刷技術は、宗教改革をもたらす一因となったと言われているが、それをはるかに上回る情報の洪水が現代には溢れているわけである。

sdecoret/Shutterstock.com

 しかしその力は、常に正しく使われるとは限らない。最近では「フェイクニュース」という言葉がすっかり定着した感があるが、この言葉が象徴しているように、いまや「ニュース」というかつては一定の信頼を置くことのできた存在ですら、誤報や虚偽が混ざっていないかを疑ってかからなければならない時代となった。そんな中で注目が高まっているのが「ファクトチェック」である。そして、その対象はテキストだけにとどまらず、YouTubeやTikTokなどの動画にまで広がっている。

トランプ氏の主張は「まったくのでたらめ」

 ファクトチェック(Fact-checking)とは文字通り、ファクト(事実)を確認する、つまり世の中に流れている情報の真偽を確認する行為だ。個人が個人の発信する情報に対してその内容を確認したり、報道機関が何らかの情報の「裏取り」をしたりする行為もファクトチェックと言えないことはないが、いま「ファクトチェック」という言葉が使われる場合、「マスメディアや、大きな発信力を持つ人物・組織が発信した情報について、中立的な立場の個人や組織がその真偽を確認する」という意味であることが多い。

 たとえば米国の著名なファクトチェック機関およびウェブサイトであるPolitiFact.comは、非営利のジャーナリズム研究機関であるPoynter Instituteが運営する組織で、米国の政治家や選挙の候補者、各種ロビー団体など米国政治に関わる人々の発言をチェックしている。その結果は、正確だと考えられる「True」から、まったくのでたらめ「Pants on Fire」まで6段階に分けられ、ウェブサイト上で公開されている。

PolitiFact.com上で公開されている、各種発言に対する真偽評価結果

 もちろん個々の評価の理由も詳しく解説されている。たとえばトランプ元大統領が今年7月に行った「アラスカ州の優先順位付投票制(Ranked choice voting)は完全に不正選挙だ」という主張は「まったくのでたらめ」と評価されているが、その理由として、優先順位付投票制は完全に合法で、メイン州など米国内の他の地域でも投票制度として採用されていること、トランプ氏が推薦する候補もこの制度の中で勝ち残る可能性があることなどを挙げており、またそのソースすなわち情報源も提示されている。

 また日本でもいくつかのファクトチェック組織が活動しており、たとえばNPO団体「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」は、ウクライナ侵攻関連の情報に対して行われたファクトチェックのまとめページを設けている。また彼らは、ファクトチェック記事の作成・発表を行う際の注意事項や推奨事項をまとめた「ファクトチェック・ガイドライン」や、9段階の「レーティング基準」などを発表するなど、ファクトチェックそのものの高度化に向けた取り組みも行っている。

FIJが発表しているレーティング基準
https://fij.info/introduction/rating

日常的に発生するフェイクニュース

 こうしたファクトチェックは、当然ながら従来も行われてきた。たとえば前述のPolitiFactは、2007年にフロリダ州の地元紙のプロジェクトとして開始されたものである。しかし近年、この活動の重要性が増す一因となっているのが、いわゆるフェイクニュースの急増である。

Annel Rautenbach/Shutterstock.com

 たとえば米国で行われた調査では、米国人のインターネットユーザーの52%が、「定期的にフェイクニュースに遭遇する」と回答している。また同じく38.2%の人々が、「誤ってフェイクニュースをシェアしてしまったことがある」と答えた。いまや多くの人々が日常的にフェイクニュースに接しており、その真偽を見抜けずに拡散に加担してしまうことも、日常的に発生しているわけだ。こうした事態を放置していれば、ますます多くのフェイクニュースが情報空間に溢れ、情報そのものに対する信頼性も失われてしまうだろう。

 それを示すようなアンケート結果もある。ある調査によれば、回答者となった米国人のうち、フェイクニュースに触れるようになった影響として、15.1%の人々が「消費するニュース全体の量を減らした」、10.6%が「特定の報道機関からニュースを得るのを止めた」と答えている。正しいニュースとフェイクニュースの切り分けが効率的に行われるようにならなければ、報道そのものが人々から避けられてしまうような事態になりかねない。

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