小此木潔(おこのぎ・きよし) ジャーナリスト、元上智大学教授
群馬県生まれ。1975年朝日新聞入社。経済部員、ニューヨーク支局員などを経て、論説委員、編集委員を務めた。2014~22年3月、上智大学教授(政策ジャーナリズム論)。著書に『財政構造改革』『消費税をどうするか』(いずれも岩波新書)、『デフレ論争のABC』(岩波ブックレット)など。監訳書に『危機と決断―バーナンキ回顧録』(角川書店)。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
語るのは楽観的な見通し、求めるのは国民の自助
新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。世界でも感染者が少ない方だと言っていたはずなのに、ふと気が付けば、世界最多の新規感染者を数える日々である。それでも岸田文雄首相はコロナ感染抑制に有効な手を打たず、日本経済の先行きについても楽観的な見通しを述べている。世界経済も失速のさなかだというのに、なんとも呑気な話である。この政権に危機を克服する能力があるのか、不安はつのるばかりだ。
国際通貨基金(IMF)が7月26日に発表した世界経済見通しによると、2022年の世界経済の成長率は前回(4月発表)の見通しよりも0.4ポイント下方修正され、前年比3.2%となった。
ロシアによるウクライナ侵略とそれに対する経済制裁、エネルギー・食糧価格の高騰などのため各国の経済は大きな打撃をこうむっている。しかも長い間世界経済を引っ張って来た米国と中国が経済停滞に陥った様子も明らかになって来た。
22年の成長率は米国が1.4ポイント低い2.3%に引き下げられ、中国は1.1ポイントの下方修正で3.3%。日本は同0.7ポイント減の1.7%となった。
IMF世界経済見通しの下方修正は今年1月、4月に続いて3度目だが、それでもなお甘すぎる。
例えば米国はすでに不況と呼ぶべき局面に入っている。米商務省が7月28日に発表した2022年4-6月期の実質国内総生産(GDP)の速報値は、年率換算で前期比0.9%減。1-3月期(1.6%減)に続いて2四半期連続であり、これによってマイナス成長が明らかになった。インフレ抑制のために米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを繰り返し、住宅投資などの急減で景気全体が冷え込みつつある。
中国経済の落ち込みも深刻で、7月15日に中国が発表した4―6月期の実質成長率は前年同期比0.4%だった。前期(1―3月期)の4.8%から大幅に減速。1992年以降で2番目の低さだった。しかも4―6月期は前期比ではマイナス2.6%という落ち込み。コロナ感染と対策が主因だ。中国と米国から世界不況がひどくなる可能性は十分にある。