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賃上げや円安阻止が、物価高の根本的解決にならない理由

電気代高騰をめぐる“我慢”の選択

田内学 お金の向こう研究所代表

 物価高が収まる気配はない。

 帝国データバンクの調査によると、食料品に関して、すでに6月までに1万789品目において物価が上昇していて、10月には単月で6305品目の値上げが予定されているという(朝日新聞デジタルNHK NEWS WEB帝国データバンク)。

拡大6月の消費者物価指数(2020年=100)は、値動きの大きい生鮮食品をのぞいた総合指数が101.7で、前年同月より2.2%上がった。上昇は10カ月連続、上昇幅が2%を超えるのは3カ月連続

 輸入に頼る小麦の価格上昇や原油高に伴う物流コストの上昇などから、加工食品で平均14%、ビールなどのアルコール飲料は平均15%価格が上昇している。

 家計に対しての打撃は大きく、連日のように、物価高がワイドショーで取り上げられている。専門家たちが出てきては、「賃金を上げさせる対策をすべきだ」「金利を上げて円安を止めろ」などと不満の声を上げている。

不満を許容できない現代社会

 とある経済学者がこんな話をしていたことを思い出す。

 「私の子どもの頃は、不満がある生活が当たり前でした」

 70歳くらいの彼が子どもの頃というと、1960年くらいだろう。東京タワー完成が1958年、前回の東京オリンピックが1964年。当時の日本を描いた大ヒット映画「ALWAYS 三丁目の夕日」の情景を思い出しながら、その話を聞いていた。

 「夏は暑くて当たり前。冬は寒くて当たり前。好きなものが食べられなくて当たり前。当たり前だから、不満があっても誰も文句は言わずに我慢していましたよ」

 と彼は当時の生活を振り返っていた。それに比べて、現代はすぐに文句を言うという話だった。

 当時と今では時代背景が異なる。3丁目の夕日の時代から日本経済は高度成長期を経て大きく成長し、現在の私たちは物質的には豊かな生活を送れるようになっている。1970代に2度のオイルショックで物資が不足し物価高を経験したことはあったものの、それもまた昔の話。社会全体がモノ不足で不満だらけだった時代は、老人の昔話や映画の中でしか見聞きできなくなっている。

 物質的に豊かな社会を生きる私たちは、生活の不満に対して許容度が小さくなっている。その不満は政治に対する文句へとつながり、マスメディアやS NSを通じて増幅する。

拡大「保育園落ちた日本死ね!!!」と書き込まれた匿名ブログ(画像の一部にモザイクをかけています)

 これは一概に悪いこととはいえない。不満の声が大きくなることで政治家や官僚の耳に入り、問題への対処へ動き始める。「保育園落ちた日本死ね!!!」という声によって、待機児童問題が大きな社会問題と認識されるようになったことは記憶に新しい。


筆者

田内学

田内学(たうち・まなぶ) お金の向こう研究所代表

1978年生まれ。東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了。国際大学対抗プログラミングコンテスト日本代表。アジア大会入賞。 ゴールドマンサックスで金利トレーダーとして16年勤務。日銀による金利指標改革にも携わる。中央省庁、自民党や議員連盟の各種会議で財政、年金、少子化問題について提言を続ける一方、学校等ではお金の教育や社会科公共の講演を行なっている。インターネット番組「経世済民オイコノミア」では司会をつとめる。著書に『お金のむこうに人がいる』(ダイヤモンド社)、『高等学校教科書 公共』(教育図書、共著)がある。
https://note.com/mnbtauchi

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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