小麦の政府売り渡し価格改定を前に 池田勇人ならなんと言う?
2022年08月08日
タイトルを読んで、「貧乏人は麦を食え」というセリフを連想された人は、かなりの年配の方だろう。所得倍増論で有名な故池田勇人は、大蔵(現在の財務)大臣だった1950年、「所得の少ない方は麦、所得の多い方はコメを食うというような経済原則に沿ったほうへ持っていきたい」と国会で答弁した。これが「貧乏人は麦を食え」と報道され、批判を浴びた。
このセリフを思い出したのは、小麦の国際価格の高騰によって、パンなどの小麦製品の価格が上昇しているため、10月に予定されている小麦の政府売り渡し価格の改定では、政府はこれまでのルールに沿った引き上げを行うべきではないという主張が強くなっているからだ。現在、池田勇人がいたなら、別の主張をしただろうと思ったからである。
なお、小麦の政府売り渡し価格と聞いて、どうして政府が輸入された小麦を製粉メーカーに売り渡すのだろうかと意外に思われた人も多かったはずだ。実は、制度的には、米、麦は、農林水産省自身が、乳製品は、農林水産省所管の独立行政法人・農畜産業振興機構が輸入している。これらを「国家貿易」と言う。農林水産省は、これらは重要な物資なので、国家が輸入を管理する必要があるというだろうが、実際には、同省の組織維持のためと国内農業保護のために使っている。バター不足が生じたのは、国内の乳製品需給の緩和とこれによる乳価の下落を恐れて、農畜産業振興機構が必要な量を輸入しなかったからである。
まず、池田の発言の時代背景を説明しよう。戦時中も米麦等の食料は不足していたが、特に終戦後は米等の不作も加わり大変な飢餓が生じた。米麦等の食糧の流通は厳しく統制された。
具体的には、政府(農林省)は農家に米麦等の農産物を安い価格で政府に売り渡すよう義務付けた。これを「供出制度」という。指示された量を売り渡さなければ、懲役刑が課されることになっていたのである。そして、政府は、供出された農産物を、貧しい人も買えるように安い価格で消費者に均等に売却した。消費者は購入通帳を持っていかなければ、決められた量を購入できなかった。裕福な者でも決められた量以上を購入することは許されなかった。これを「配給制度」と言う。
これらは、1942年制定の戦時統制立法である食糧管理法によって実施された。食糧管理法は生産者保護の法制として1995年まで存続するが、本来は消費者保護の立法だった。
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