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【対談】地方移住の受け皿となる自治体の実情は?(前編)

衆議院議員・務台俊介氏×長野県安曇野市長・太田寛氏

神山典士 ノンフィクション作家

 コロナ禍も3年目。2020年春から始まった東京都の人口減少トレンドは相変わらず続いている。新入学・入社期の春には一時的に人口は増加するが、対前月増減数は夏に向かって減少。20年、21年は6月からマイナスとなり、22年も秋に向かって減少傾向だ。

 産業界でもテレワークの流れが加速している。NTTでは3万人の社員をリモートワーク化。yahooも社員の居住地を完全自由に。東芝も4万4000人の原則出社を撤廃した。いずれの社も「優秀な人材を確保するため」と発表しているから、この「人口逆流時代」は今後もとどまりそうもない。

 その時大切なのは「受け皿」となる地方自治体の姿勢だ。優秀な人材が地方に移住・2拠点生活を始めても、それを生かす政策がなければ単に住民票が移動しただけで地方の活性化には繋がらない。現在の地方自治体の実態はどうなっているのか?

 今回は2人の論客の対談をお届けしよう。片や11年前から「ふるさと投票」(後編参照)を提案し、地方の声を国政に反映することを訴えてきた衆議院議員務台俊介(比例北陸信越ブロック)氏。こなた長野県副知事として6年間県の実務を担い、21年10月の選挙で故郷安曇野市長に就任した太田寛(ゆたか)氏。2人は同郷の生まれで、松本深志高校の同期生でもある。長野県と安曇野市をモデルケースとしながら、2人の忌憚のない意見から全国の自治体の学ぶべき点をあぶり出していきたい。

北アルプス拡大安曇平を隔てて長峰山山頂から春の北アルプスを望む=安曇野市提供

都心の若者を地方に引き込む政策は

務台 私は6年ほど前から安曇野に首都圏の大学のサテライトキャンパスを設置することを政府の方針として提案し、当時の安曇野市長にも受け皿となることを勧めてきました。いまあの案はどうなっていますか?

太田 それに関しては東京芸大との間で3年前に話がありました。学生を夏休みの間だけ安曇野にきてもらって作品制作をやってもらおうというアイデアです。ところが県がこれを進めようとしても、当時の市役所は新しいことになかなかチャレンジしてくれない。大学生が安曇野で学ぶ意義を関係者がわかっていなかったんです。芸大の関係者も「これでは安曇野市でのサテライトは難しいですね」とある意味、匙を投げてしまった。私が市長に就任したことで芸大からご連絡をいただいたので、「よろしくお願いします」と再考をお願いして話し合いをしているところです。

安曇野市 長野県中信地方に位置する。人口は9万7000人弱。2005年、豊科町、穂高町など3町2村の合併により誕生。北アルプスを望む風光明媚な町で、碌山美術館、豊科近代美術館など文化的施設も多い。人口減少(特に20代)とともに、中心市街地の衰退が大きな課題。産業構造は農業、工業、観光とバランスがとれているが、既存商店街の活性化が課題となっている。

務台 長野県は高校を出て大学に進学する生徒の85%が県外に出てしまう現状があります。県内の大学が圧倒的に少ないからです。かといって少子化の中で新しい大学をつくるのは難しい。であれば首都圏の大学の1、2年生を中心に地方にサテライトキャンパスをつくってそこで学んでもらうのが現実的なやり方だと思うのですが。

太田 安曇野はその点まさにうってつけです。自然環境はいい。文化や歴史もある。殊に芸大の場合、芸大出身の漆芸家高橋節郎さんの美術館もあるし、美しい山岳や隣の松本市にはサイトウ記念オーケストラの歴史もある。まさに学びの聖地です。

務台俊介氏・太田寛氏拡大

 務台俊介(むたい・しゅんすけ) 1956年長野県安曇野市生まれ、衆議院議員、元総務省(旧自治省)官僚、元神奈川大学教授、前環境副大臣、元地方創生・防災担当政務官。11年前から「ふるさと投票」を提唱しブログや自民党の会合等で積極的に発言。「地方の声を大切にする政治」、「若者の地方回帰」を信条とする=写真左。
 太田寛(おおた・ゆたか) 1956年長野県安曇野市生まれ、元長野県職員。6年半務めた長野県副知事を辞し、2021年10月安曇野市市長に就任。「住みたい安曇野、住んでよかった安曇野」をめざす=写真右。
 安曇野市の移住促進策 市では移住定住推進課や安曇野暮らし支援協議会を設置して、空き家バンクやお試し住宅制度を提供している。美しい自然やおいしい果物・野菜が呼び水となり、移住希望者は県内でもトップクラスを誇る。ことにコロナ禍となってからは、リモートワークが可能になったことで「転職なき移住」の候補地としても人気が高い。

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筆者

神山典士

神山典士(こうやまのりお) ノンフィクション作家

1960年埼玉県生まれ、信州大学人文学部卒業。96年『ライオンの夢、コンデ・コマ=前田光世伝』にて小学館ノンフィクション賞優秀賞。2011年『ピアノはともだち、奇跡のピアニスト辻井伸行の秘密』(講談社、青い鳥文庫)が全国読書感想文コンクール課題図書選定。14年「佐村河内事件報道」により、第45回大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)雑誌ジャーナリズム大賞受賞。「異文化」「表現者」「アウトロー」をテーマに様々なジャンルの主人公を追い続けている。最新刊は『トカイナカに生きる』(文春新書)。他に『知られざる北斎』(幻冬舎)、『もう恥を書かない文章術』(ポプラ社)『成功する里山ビジネス~ダウンシフトという選択』(角川新書)「社員の幸せを創る経営」(幻冬舎)等

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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