基本は賃上げ、真の「新しい資本主義」実現を
2022年10月11日
岸田首相は10月3日の所信表明演説で「物価高への対応に全力をもって当たり、日本経済を必ず再生させます」と述べたが、迫力も説得力も感じられなかった。物価対応を言うのであれば、依存しすぎて中毒になった感すらある金融の「異次元緩和」と円安をどうするのか。インフレで賃金の目減りがますます懸念されるのに、長年の課題とされたままの賃上げをいかに実現するのか。円安に象徴される日本経済の弱さに首相と政権がきちんと向き合うよう、国会もメディアもとことん追及してほしい。
10月3日の東京外国為替市場で円相場は1ドル=145円台の取引となった。145円台は、政府・日銀が急速な円安に歯止めをかけようとしてドル売り・円買いの市場介入に踏み切った9月22日以来のことだ。
介入の直後に円相場は一時、1ドル=140円台前半まで上昇したが、結局のところドル買い・円売りのうねりが続く市場の構図は変わらず、政府・日銀の介入も焼け石に水だったことが確認された。
しかし、現在の円安には構造的要因があり、決して投機筋のせいにはできない。米国でインフレ抑制のための大幅な利上げが続く見通しであり、日本では政府・日銀が景気後退などを恐れて利上げできないため、日米の金利差が拡大し続けるのは不可避だ。短期的な売買で儲けを狙うヘッジファンドなどの投機筋は、この構図を前提に円売りを仕掛けているにすぎない。
つまり最近の円安は日米や日欧間の金利差という構造的要因のせいであり、むしろ経済のファンダメンタルズ(基礎的諸条件)を忠実に反映しているとみるべきだ。久々の市場介入は、政府が円安に対して無策であると言われないために採った窮余の策であり、円安の原因としての「異次元の金融緩和」政策を変更できない政府のジレンマを覆い隠す政治的対応で、一種の茶番劇とも言える。
超低金利政策を反転させれば、利上げによる住宅ローンの負担増などが消費全体を冷やし、株式や債券の投げ売りで市場は大暴落に陥りかねない。だから政府は円安をどうにもできず、金融緩和政策の「出口」を議論することすら怖くてできずにいる。
こうしてみると円安は、もはやそれなしには立っていられないという日本経済の弱さを物語るものになっていると言える。
首相は所信表明演説で、物価高・円安対応策として、家計・企業の電力料金負担増を緩和するなどと述べたが、財政出動は恒久的な対策としてあてにはできない。むしろ首相が続いて述べた「構造的な賃上げ」こそが日本経済の弱さを克服するための基本戦略でなければならない。
こうした数字はGDPも賃金も長期的に横ばいが続いた日本経済の停滞ぶりを映すと同時に、賃金上昇を伴う経済成長の重要性を示している。岸田首相は防衛費の増額を言う前に、まずは賃上げや経済成長を先進国並みに実現するための政策を考えるべきではないか。
首相は所信表明で「なぜ、日本では、長年にわたり、大きな賃上げが実現しないのか」と問いを立てつつ、その理由に関しては賃上げが「企業の生産性を向上させ、さらなる賃上げを生むという好循環が、機能していないという構造的な問題があります」と述べた。
そして「物価高が進み、賃上げが喫緊の課題となっている今こそ、正面から果断に、この積年の大問題に挑み、構造的な賃上げを目指します」と意欲を見せたのだが、これまでに掲げてきた看護、介護、保育などの分野の処遇改善に加えて、新たな施策としては成長分野への移動のための学び直し(リスキリング)などを挙げた。しかし、これで「構造的な賃上げ」という「喫緊の課題」に対処できると思う人がいるかどうか。
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