メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

止まらない円安、日本経済の弱さをどうするのか

基本は賃上げ、真の「新しい資本主義」実現を

小此木潔 ジャーナリスト、元上智大学教授

 岸田首相は10月3日の所信表明演説で「物価高への対応に全力をもって当たり、日本経済を必ず再生させます」と述べたが、迫力も説得力も感じられなかった。物価対応を言うのであれば、依存しすぎて中毒になった感すらある金融の「異次元緩和」と円安をどうするのか。インフレで賃金の目減りがますます懸念されるのに、長年の課題とされたままの賃上げをいかに実現するのか。円安に象徴される日本経済の弱さに首相と政権がきちんと向き合うよう、国会もメディアもとことん追及してほしい。

24年ぶりの「円買い介入」は「焼け石に水」

 10月3日の東京外国為替市場で円相場は1ドル=145円台の取引となった。145円台は、政府・日銀が急速な円安に歯止めをかけようとしてドル売り・円買いの市場介入に踏み切った9月22日以来のことだ。

 介入の直後に円相場は一時、1ドル=140円台前半まで上昇したが、結局のところドル買い・円売りのうねりが続く市場の構図は変わらず、政府・日銀の介入も焼け石に水だったことが確認された。

拡大Stuart Miles/shutterstock.com
 政府・日銀によるドル売り・円買いの市場介入は24年ぶりで、鈴木俊一財務相は当日の記者会見で「投機による過度な変動が繰り返されることは見過ごせない」と強調し、神田真人財務官も「投機的な問題があった場合は是正する必要がある」と、市場介入の理由を述べた。急激な円安の要因として投機筋の動きを指摘したものだ。

 しかし、現在の円安には構造的要因があり、決して投機筋のせいにはできない。米国でインフレ抑制のための大幅な利上げが続く見通しであり、日本では政府・日銀が景気後退などを恐れて利上げできないため、日米の金利差が拡大し続けるのは不可避だ。短期的な売買で儲けを狙うヘッジファンドなどの投機筋は、この構図を前提に円売りを仕掛けているにすぎない。

 つまり最近の円安は日米や日欧間の金利差という構造的要因のせいであり、むしろ経済のファンダメンタルズ(基礎的諸条件)を忠実に反映しているとみるべきだ。久々の市場介入は、政府が円安に対して無策であると言われないために採った窮余の策であり、円安の原因としての「異次元の金融緩和」政策を変更できない政府のジレンマを覆い隠す政治的対応で、一種の茶番劇とも言える。

 超低金利政策を反転させれば、利上げによる住宅ローンの負担増などが消費全体を冷やし、株式や債券の投げ売りで市場は大暴落に陥りかねない。だから政府は円安をどうにもできず、金融緩和政策の「出口」を議論することすら怖くてできずにいる。

 こうしてみると円安は、もはやそれなしには立っていられないという日本経済の弱さを物語るものになっていると言える。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

小此木潔

小此木潔(おこのぎ・きよし) ジャーナリスト、元上智大学教授

群馬県生まれ。1975年朝日新聞入社。経済部員、ニューヨーク支局員などを経て、論説委員、編集委員を務めた。2014~22年3月、上智大学教授(政策ジャーナリズム論)。著書に『財政構造改革』『消費税をどうするか』(いずれも岩波新書)、『デフレ論争のABC』(岩波ブックレット)など。監訳書に『危機と決断―バーナンキ回顧録』(角川書店)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

小此木潔の記事

もっと見る