保護農政への揺り戻し図る農政トライアングルと「お墨付き」のためだけの審議会
2022年10月21日
食料・農業・農村基本法の見直しが1年かけて行われることになった。同法に基づく食料・農業・農村政策審議会にこれまでの基本法の運用や問題点を検証する部会を設けて議論する。この部会の委員は、農業団体や消費者団体の代表、食品企業の役員、経済学者、農業経済学者、自治体関係者など20名である。
しかし、最終的な結論は、簡単に予想できる。というより、もう決まっているはずだ。審議会は、これにお墨付けを与えるだけだ。
前身の農業基本法から現行の食料・農業・農村基本法制定に至る歴史的経緯と今回の改正論議の背景を解説した前稿「食料・農業・農村基本法見直しの背景はなにか」(2022年10月11日付)はこちらからお読みいただけます。
世界貿易機関(WTO)が機能不全になり、環太平洋パートナーシップ(TPP)交渉でもそれほど農産物関税の引き下げを要求されなかったことから、農業界は農産物貿易の自由化はかなり遠のいたと感じている。それなら、国内農業の構造改革を行って価格を引き下げ、国際競争力を上げる必要はない。食料・農業・農村基本法の構造改革路線は転換され、効率の悪い零細な兼業農家も農業の担い手だとして、現状維持的な政策が行われることになろう。既に、2020年に作られた基本計画で、零細農維持への政策転換は行われている。
米や麦などの土地利用型農業では、農業経営体(農家)当たりの規模が大きいほど、効率性が上がり、コストは低下する。しかし、面積が一定で農業経営体の規模が拡大するということは、農業経営体の数が減少するということである。これは農業票が減少するということであり、JA農協や自民党農林族にとっては好ましくない。かれらは農林水産省の一部官僚による構造改革路線に反対してきた。国際的な圧力がなくなった以上、かれらの望む農家戸数維持重視の農政に転換されるだろう。
このため、彼らは、農業従事者や農家戸数が減少すると農業生産が減少して食料安全保障が危うくなるという主張を行うようになっている。米などの土地利用型農業と野菜などの労働利用型農業の違いが分からないマスメディアの素人記者たちは、このウソを信じ込んで報道している。しかし、農業従事者数と農業生産額の推移を検証すると、これがウソだということは簡単にわかる。米などの土地利用型農業で労働力不足という不満は聞かない。むしろ農家戸数が多すぎることが問題なのだ。
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