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デスク爆撃――いきなり職場のデスクに来て対面の会話を強要するのは失礼?

「攻撃化」する対面コミュニケーション

小林啓倫 経営コンサルタント

 2020年に発生した新型コロナウイルスのパンデミックは、私たちの社会に大きな変化をもたらしたが、テレワークによる在宅での勤務もそのひとつだろう。もちろんテレワークはコロナ前から、多様な働き方を実現する手段のひとつとして推進されてきたが、感染症対策として移動が制限される中で多くの企業が導入に踏み切っている。

 総務省が2021年に発表した「ウィズコロナにおけるデジタル活用の実態と利用者意識の変化に関する調査研究」の結果によれば、在宅でテレワークしたことのある人の割合はおよそ35パーセントまでに至っている。自宅でひとりパソコンに向かい、同僚や上司とのコミュニケーションはウェブ会議やチャットを通じて行う――そんな生活が日常になった、という方も多いはずだ。

 そうした環境変化がもたらしたものか、いま英語圏で新たな流行語が生まれているそうである。その言葉とは「デスク爆撃(デスクボミング、Desk-Bombing)」である。

デスクを「突然」襲撃する人々

 この言葉を紹介した英フィナンシャル・タイムズ紙の記事によれば、これは「職場で(同僚などのデスクを突然訪れ)予期せぬ質問をすること」という意味で、そうした行為をする人を「デスクボマー(Desk-Bomber)」と呼んでいる。「ボマー(爆弾魔)」は爆弾テロの犯人にも使われるような表現で、いかにこの行為が否定的なニュアンスを持つものか分かるだろう。

拡大デスク爆撃(Desk-Bombing)を紹介した英フィナンシャルタイムズ紙の記事
出典

 たとえばあなたがオフィスに出勤していて、自分のデスクで作業に追われているとしよう。あまりに忙しいので、気を散らされないために、メールやチャットの通知をオフにしているほどだ。そこに突然、経理担当者がやってきて「こないだの経費申請でミスがあったから、修正しておいてくれる?」と言われたらどう感じるだろうか。

 経費申請の締め切りがどのくらい間近に迫っているのか、申請が通らなかったら戻ってこないお金の額がどの程度かなどにもよるが、目の前の作業を優先したいあなたは「うるさい!」と感じてしまうかもしれない。これが「デスク爆撃」である。

 ただ「デスクボマー」の側から見たらどうだろうか? あなたの作業を「突然」邪魔してはいけないと、もしかしたらメールやチャットで事前に連絡を取ろうとしていたのかもしれない。あるいは別件であなたの部署を訪れた際、親切心で声をかけてくれたのかもしれない。いずれにせよ、申請ミスの訂正をお願いしたいという簡単な依頼なのだから、わざわざ何日もかけてアポを取って時間を確保するというたぐいの話でもないだろう。

 デスク爆撃をされた人の気持ちも、デスクボマーの言い分もそれぞれ納得できるものだが、オフィスでもさまざまなコミュニケーションツールが導入されるようになったいま、「いきなりデスクに来て対面での会話を強要されるのは失礼」と感じる人が増えたようだ。

 なにしろパソコン画面の片隅に表示されるメール受信通知は、忙しければ無視してしまうことも可能だが、対面でのコミュニケーションを求められたら無視するわけにもいかない。個人の性格にもよるが、「忙しいから出直して来て!」と言い放つのも失礼に感じるだろう。

 そしてテレワークの普及により、物理的な形で予期せぬコミュニケーションを強いられる機会は極端に減った。自室のパソコンに向かっているときに警戒しなければならないのは、足音も立てずに忍び寄る飼い猫くらいだ。さきほどの例のように、デジタルツールを通じたコンタクトであれば、自分の都合に合わせて応じる・応じないをコントロールできる。そした環境に慣れてしまうと、たまにオフィスに出社した際の対面コミュニケーションが、まるで攻撃のように感じられてしまうのも致し方ない。

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筆者

小林啓倫

小林啓倫(こばやし・あきひと) 経営コンサルタント

1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える!金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『今こそ読みたいマクルーハン』(マイナビ出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(アレックス・ペントランド著、草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(トーマス・H・ダベンポート著、日経BP)など多数。また国内外にて、最先端技術の動向およびビジネス活用に関するセミナーを手がけている。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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