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食料・農業・農村基本法見直しのウソとまやかし

だまされないために知っておきたい本当のこと

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 食料安全保障強化などを理由に食料・農業・農村基本法が見直される。しかし、間違った事実や前提の上に検討が行われれば、間違った結論しか出されない。

 農業や農村について事実だとして流布しているものには、ウソやまやかしが多い。農業や農村は、100年以上も一定だった農家戸数や農業就業者数が1965(昭和40)年以降、激減するなど、大きく変化した。しかし、国民は農業や農村から遠く離れてしまっているために、それ以前の古いままのイメージしか持っていない。農村出身者でも農業・農村の現状を全く知らないでいる。

田んぼ拡大収穫期を迎えた新潟市内の田んぼ。見渡す限り黄金色に染まっていた=2022年9月11日

ウソを作り利用するのは誰か

 自民党農林族議員・JA農協・農林水産省の農政トライアングルは、これに乗じる。特定の結論に国民を誘導するために、こうしたウソを利用したり、ウソを作ったりする。例えば、「先祖伝来の土地だから、農家は農地を貸したがらない」「関税が撤廃されると、農業は壊滅する」や「輸入品に比べ、国産農産物はより安全だし安定的に供給される」という類いである。今回も、農業人口が減少すると食料の安定供給が損なわれると主張している。

 これらの情報操作は極めて巧みなので、多くの人が信じてしまう。主要紙やNHKなどの記者は1~2年しか農政を担当しないので、農政トライアングルが流すウソを見抜けない。私が書く本を読む時間もないようだ。このため農林水産省が言うままに報道する。これを批判する専門知識がない一般の人も、間違った報道を鵜呑みにするしかない。

 大学や研究所等の農業関係の研究者たちも、農業や農村が縮小すると、自分たちの居場所がなくなってしまう。農業保護を維持したいかれらも、農政トライアングルに加担して、ウソの主張を行う。また、研究者自身、農業をめぐる内外の環境、農業の現状、政策や歴史について、必ずしも十分な知識を持っているわけではなく、憶測で書いたりしている。都会の大きな書店の農業本のコーナーは、こうした本であふれている。しかし、農業についての知識がない多くの人は、政府・農林水産省や研究者が書いたものを正しいと信じてしまう。

 農家や農業者自身が正しい知識を持っているかというと、そうではない。農業も、米、野菜、果樹、畜産などさまざまである。成功者としてよく登場する野菜農家は、米や畜産を知らない。彼らは、自己の農作業や経営のことは知っていても、農業をめぐる一般的な状況や政策については、知らないことが多い。

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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