小此木潔(おこのぎ・きよし) ジャーナリスト、元上智大学教授
群馬県生まれ。1975年朝日新聞入社。経済部員、ニューヨーク支局員などを経て、論説委員、編集委員を務めた。2014~22年3月、上智大学教授(政策ジャーナリズム論)。著書に『財政構造改革』『消費税をどうするか』(いずれも岩波新書)、『デフレ論争のABC』(岩波ブックレット)など。監訳書に『危機と決断―バーナンキ回顧録』(角川書店)。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
吟味が必要な経済対策39兆円の使途、財界から苦言も
岸田政権の総合経済対策は、支持率回復の狙いもあって大盤振る舞いが際立つ。一方では防衛費の膨張はたいして議論もないまま既定路線になりつつある。
当面は国債という借金に頼る構図になりそうだが、放漫財政のツケは結局のところ国民が増税という形で負担させられることになる。やがて負担増と財政破綻が日本経済の停滞に拍車をかけ、金融市場の大混乱を招くかもしれない。
見栄えの良い「朝三暮四」の政治手法に目を奪われず、財源と負担のあり方を粘り強く議論して歳出を厳しく吟味しなければいけない局面である。国民のチェックが甘すぎれば、ばらまきと軍拡が日本経済を壊すことにすらなりかねない。
政府が総合経済対策を閣議決定した10月28日、岸田首相は官邸で記者会見し、対策の予算措置として2022年度第2次補正予算案を一般会計で約29兆円計上し、財政投融資などを含む財政支出は総額約39兆円にしたと発表した。「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」と銘打って2023年1月からの電気代の負担を2割、都市ガス代は1割強を軽減し、ガソリン価格抑制策の継続などと合わせて物価・賃上げ対策に12兆円余を支出するとした。
子育て世帯応援に10万円給付や出産育児一時金の増額をしたり、4人家族で1泊当たり4.4万円の割引になる旅行支援もしたりする。民間資金を合わせれば、実質国内総生産(GDP)を4.6%押し上げる一方で消費者物価を1.2%程度引き下げる効果がある、と説明した。電気代の負担は標準的な家庭(400キロワット時)で月2800円安くなるというから、家計にとって当面は助かる話であるのは確かだ。
しかし、補正予算を歳入面から見れば、22兆円余りの国債を追加発行。大半を借金でまかなう。これによって2022年度の国債発行額は62兆円台に膨らみ、同年度末の国債残高は1042兆円に達する見込みだ。
国内総生産(GDP)比で見た2022年の政府債務残高(推計)は、日本が252%で、米国131%、英国107%、ドイツ70%、フランス114%、イタリア150%、カナダ104%などに比べてはるかに大きい。すでに世界最悪と言われて久しいこの財政赤字の膨張が今後さらに加速してしまうのだ(財務省:債務残高の国際比較)。
経済成長に伴う税収の増加が望めない状況が続く限り、赤字を減らそうとすれば増税に頼らざるを得なくなる。だからすでに国際通貨基金(IMF)は、2019年11月に日本経済についての報告書を公表し、2030年までに消費税率を15%に上げる必要があるとした。さらに2050年までには20%に引き上げるべきだとも指摘している。そういう増税を実施すれば消費が抑制されて景気が悪化し、GDPにも悪影響が出るはずだが、IMFはなぜかマクロ経済への影響を軽視しているとしか思えないほど増税に前のめりだ。
国民生活を支えるという総合経済対策の名目は立派だし、経済危機や不況対策に財政の役割は大切であるが、だからと言ってお金をどんどん使ってしまえば、財政赤字が膨らみ、それを減らすための増税が近づいてくることになる。一方で国民が望むような福祉や教育などの政策にお金は回しにくくなってしまう。
こうした構図を考えてみれば、政府の経済対策の規模と内容は妥当と言えるかどうか。特に旅行支援などはもっと慎重に検討しなくてよいか、使途が具体的でない新型コロナ・物価対策を軸に予備費を4.7兆円も補正予算に盛り込んでいるのはおかしくないか。メディアは国民が抱く様々な疑問を先取りして歳出をチェックし、議論を深めることが望まれる。