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高橋治之、竹田恒和を結び五輪汚職の温床にもなった「慶応三田会」 正と負の吸引力の源泉

華麗なる学閥を支える評議員選挙の狂騒

石川智也 朝日新聞記者

「社中協力は慶応の生命線」

 こうした慶応生の「習性」の根っこには、創立者福沢諭吉の「社中協力」の思想がある。在学生と塾員と義塾が相協力するこの態勢を、かつて慶応義塾理事(塾員担当)を務めた井田良・慶大名誉教授は「義塾の生命線」と言明した。

 慶応では卒業式が終わったその場で「(卒業)年度三田会」の結成式が開かれ、連合三田会から事務経費の目録が渡される。卒業しても一生涯、義塾との紐帯が続くことが、こうして強く刻印される。

 「人脈が力」の伝統は、慶大生の就職の強さにも直結している。ゼミ代表の学生に「ウチの銀行の説明をさせてくれ」と名も知らぬ卒業生から突然電話がかかってくることも、経済学部や商学部ではよくある風景。廃れたとされるリクルーター制度も健在だ。元評議員の西富は、入学直後に受けたカルチャーショックが今も忘れられないという。

 「早慶戦の後のサークルやゼミのOB会が、ホテルで開かれる。その場に来るOBを目当てに、現役の塾生もみなスーツ姿で名刺を持って参加する。驚きました」

 こうして早くからビジネスマナーを学ぶ機会が、各企業の採用担当者が口をそろえる慶大生の社交性とソツのなさを培っていることは間違いないだろう。

銀座の時計塔前で服部セイコー社長の服部礼次郎さん(当時64)=1985年7月4日、東京都中央区銀座4丁目 拡大1987年から2013年まで連合三田会会長を務めた故・服部礼次郎=1985年7月、東京・銀座
 「三田会はただの同窓会の枠を超え、様々な恩恵を得られるところ」と言い切る西富は現在、「東京三田倶楽部」以外にも3団体の会員だ。入会金や年会費を取らない会も多いが、活動に熱心な塾員ならこうした複数所属は珍しくない。定期的に集まっても月並みな宴と催しが開かれるだけだが、「三田会人脈を使えば会社の幹部でもアポが取れる」(某不動産会社社員)とあらば、年数万円程度の木戸銭がどうして高かろう。 

 このように、三田会の特徴はその多重構造にある。こうした仕組みを戦後に整えたのが、1987年から2013年まで連合三田会の会長を務めた故・服部礼次郎(セイコーホールディングス社長・会長・名誉会長を歴任)だ。服部は生前、「三田会には上部下部という組織はない。ピラミッド構造ではなくネットワークであることが強みになっている」と語っていた。

 もっとも、「強み」の理由はそれだけではない。連合三田会の役員に名を連ねるのは、これまでも、現在も、挙げていけばきりがないほど財界のトップばかり。顧問には小泉純一郎、小沢一郎といった名も並ぶ。

 日本一エスタブリッシュな銀座4丁目の交差点を睥睨する時計塔の主の服部が、この連合三田会の会長を四半世紀務めていたのも、なにか象徴的に思える。

評議員選挙“狂想曲”が批判の的に

 しかしながら、三田会のあり方は近年、批判を浴び続けている。

 慶応義塾は4年に一度のワールドカップイヤーに、政治の季節がやってくる。全塾員40万人が投票権を持つ評議員会選挙だ。今年がまさにその年で、10月3日が投票の締め切りだった。

 評議員101人のうち、塾員が直接選挙で選ぶ「卒業生評議員」枠は30人。今回の候補者は60人で、いつも通り、大林剛郎・大林組会長、勝野哲・中部電力会長、永野毅・東京海上ホールディングス会長、三毛兼承・三菱UFJフィナンシャル・グループ会長といったそうそうたる顔ぶれとなった。

 「批判」とは、毎回毎回、企業単位の組織的な集票活動が問題となり、その狂騒ぶりがメディアでも度々取り上げられてきたからだ。自社や取引先からの候補を当選させるべく、投票用紙を白紙のまま確保しようと、各三田会がいつも以上に活発化する。慶応義塾は2010年以降、「行き過ぎた集票行為」について「品位を欠くものであるとの批判を頂いている」「投票用紙の譲渡は禁止されている」と自重を促してきた

慶応義塾の卒業生評議員選挙の投票用紙。これを白紙のまま手に入れようと、多くの人が暗躍する拡大慶応義塾の卒業生評議員選挙の投票用紙。これを白紙のまま手に入れようと、多くの人が暗躍する

 大手ゼネコンの大成建設ではかつて、専務をトップに据えた「事務局」を営業総本部内に置き、全社を挙げて集票に取り組んでいた。社員が図書カードを謝礼に4桁単位の投票用紙を集め、候補者を出している取引先に分配した。カネカは会長が立候補した2010年、納入業者らに資材部長名で「投票用紙の取りまとめ」を依頼していた。

 義塾による呼びかけの効果か、報道への警戒からか、こうした露骨な集票活動は、今回は鳴りを潜めているようにも見える。しかし、罰則があるでもなく、水面下では状況は変わっていない。

 明治大出身の某印刷大手の社員は、やはり慶応とは無関係の上司に命じられ、友人や知り合いに塾生がいないか必死に探した。「取引先の暗黙の要請に応えるため」だという。

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筆者

石川智也

石川智也(いしかわ・ともや) 朝日新聞記者

1998年、朝日新聞社入社。社会部でメディアや教育、原発など担当した後、特別報道部を経て2021年4月からオピニオン編集部記者、論座編集部員。慶応義塾大学SFC研究所上席所員を経て明治大学ソーシャル・コミュニケーション研究所客員研究員。著書に『さよなら朝日』(柏書房)、共著に『それでも日本人は原発を選んだ』(朝日新聞出版)、『住民投票の総て』(「国民投票/住民投票」情報室)等。ツイッターは@Ishikawa_Tomoya

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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