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戦後農政を総決算せよ

食料・農業・農村基本法見直しのあるべき基本原則とは?

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 これまで3回にわたって、食料・農業・農村基本法見直しの背景、政府(自民党農林族・農水省・JA農協の農政トライアングル)が考えている見直しの方向、国民が検討する際に知っておくべき食料・農業についての正しい知識などについて、述べてきた。ここでは、国民として食料を安定的に供給されるために、どのような基本原則や視点にたって検討すべきかを考えてみたい。

水田と列車拡大田植えが始まったばかりの田園地帯を走る列車。沿線は過疎化が進み、利用客の減少に歯止めがかかっていない=2022年5月、広島県庄原市西城町

農政トライアングル主導の基本法見直し

 その前に、これまで述べてきたことを整理しよう。

 ①国際的な農産物自由化圧力が低下したために、農業界では、現基本法が要求している農業の構造改革への意欲や緊張感も低下し、零細で非効率的な農業と農業関係人口を維持すべきだという主張が高まっている、それが、農政トライアングル、特にJA農協の利益にかなうからである。
 ②農政トライアングルは、ロシアによるウクライナ侵攻で食料安全保障に対する国民の関心が高まっていることを国内農業保護の増大に利用しようとしている、麦や大豆の増産は、これまでの失敗の繰り返しとなる。
 ③本来であれば、政府の審議会の場で、特定の集団の利益を離れて、食料安全保障や多面的機能という利益を損ない、国民の負担を不当に高めるような動きをチェックすべき学者、研究者たちが、大学内部での自己の立身出世のために農政トライアングルにすり寄ってしまう。
 ④国民が農業や農村から遠く離れてしまったために、農家は貧しいなど、農業や農村について農業界によって語られるウソを信じてしまい、これが国民全体の利益に反する間違った政策が実施される大きな原因となっている。
 ⑤以上から国民全体の利益や経済学に基づく科学的な行政とは著しく乖離した、JA農協を始めとする農政トライアングルの既得権益を考慮した政策が採用・実施されてしまう。
 食料・農業・農村基本法見直しに関する筆者の論考は次のとおりです。
 「食料・農業・農村基本法見直しの背景はなにか 政治に翻弄された農政の軌跡から見えてくる揺り戻しの正体とは」(2022年10月11日付)
 「『改悪』の結末が透ける食料・農業・農村基本法見直し 保護農政への揺り戻し図る農政トライアングルと『お墨付き』のためだけの審議会」(2022年10月21日付)
 「食料・農業・農村基本法見直しのウソとまやかし だまされないために知っておきたい本当のこと」(2022年11月02日付)

 残念ながら、以上の指摘や批判をものともしないで、食料・農業・農村基本法は農政トライアングルが考えている方向で見直されることになるだろう。政府の方針は決まっているはずだ。

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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