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農業を国民に取り戻すための6個の提言

食料・農業・農村基本法見直しを機に農政を抜本的に正せ

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 前回は、国民全体の利益に立って食料安全保障や多面的機能という利益を確保し向上させるためには、どのような基本原則に立つべきかについて議論した(2022年12月1日付「戦後農政を総決算せよ」)。ここでは、食料・農業・農村基本法見直しに関する論考の最後として、どのような方法で、それを実現すべきかについて、議論したい。今の農政は、基本原則だけでなく、政策手法についても、大きな間違いを犯しているからである。

収穫期を迎え、黄金色に輝く県産ブランド米「青天の霹靂」。やませの影響はほとんどないという=青森県平川市 2017年9月16日拡大収穫期を迎え、稲穂が黄金色に輝く=青森県平川市、2017年9月

世界標準から周回遅れの日本農政

 OECD(経済協力開発機構)が開発したPSE(Producer Support Estimate:生産者支持推定量)という農業保護の指標は、財政負担によって農家の所得を維持している「納税者負担」と、国内価格と国際価格との差(内外価格差)に国内生産量をかけた「消費者負担」(消費者が安い国際価格ではなく高い国内価格を農家に払うことで農家に所得移転している額)の合計である(PSE=財政負担+内外価格差×生産量)。

 農家受取額に占める農業保護PSEの割合(%PSEという)は、2020年時点でアメリカ11.0%、EU19.3%に対し、日本は40.9%と高くなっている。日本では、農家収入の4割は農業保護だということである。

画像1拡大注)OECDとは、OECD加盟国の平均。

 しかも、日本の農業保護は、消費者負担の割合が圧倒的に高いという特徴がある。各国のPSEの内訳をみると、農業保護のうち消費者負担の部分の割合は、2020年ではアメリカ6%、EU16%、日本76%(約4兆円)となっている。欧米が価格支持から直接支払いへ政策を変更しているのに、日本の農業保護は依然価格支持中心だ。国内価格が国際価格を大きく上回るため、輸入品にも高関税をかけなければならなくなる。

画像2拡大OECD “Agricultural Policy Monitoring and Evaluation 2020”より筆者作成
 

 農政トライアングルの政治家はTPP(環太平洋パートナーシップ)交渉を「国益をかけた戦い」と表現した。その国益とは農産物関税を守ることだった。その関税で守っているのは、国内の高い農産物=食料品価格だ。これで保護しているのは農家であり、負担しているのは消費者である。

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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