【13】日産を私物化したゴーン元CEOから会社の独立を守った/2018年
2022年12月15日
フランスのルノーと日産自動車の資本関係を対等に見直す協議が進んでいる。現段階ではどうなるか予断を許さないが、ルノーと日産のCEOを兼ねたカルロス・ゴーンが2018年11月に逮捕される前までは、ルノーと日産は経営統合しそうな情勢だった。だが、経営統合に向けた検討がまさに進もうとしていた矢先、その旗振り役だったゴーンは東京地検特捜部に逮捕され、フランス政府のルノーによる日産吸収の野望も挫かれた。ゴーンの不正を告発し、統合を阻止したのは、ハリ・ナダという英国籍の日産幹部だった。
フランスは、戦後の「混合経済」の名残から政府(保有株式監督庁)が大企業の株を保有してきた。シラク政権以降、政府株が段階的に放出されて民営化が進んだ今でも仏保有株式監督庁がエールフランスKLMやエアバスなど74社の株を保有している。戦後「ルノー公団」だったルノーの株式も15%保有しており、ゴーンを除く歴代の経営トップは実質的に政府が指名してきた。
製造業の衰退と国際競争力の低下を受けて、フランスは2014年、自国産業の競争力維持と国内雇用確保のため、フロランジュ法(実体経済回復のための法律)を制定した。フロランジュ法は、短期売買を繰り返す投資ファンドなどの株主の発言権を抑え、代わりに政府など長期保有株主の発言を拡大しようと、1年以上株式を持ち続ける長期保有株主の議決権を2倍にした。1票が2票になるのだ。これによって、ルノーの場合、政府の持ち分が15%なのに、議決権は30%近くなった。マクロン政権はこの議決権拡大をてこにして、ルノーが43%の株を持つ日産自動車との経営統合を実現させ、日産の持つ技術や生産力、販路を吸収するつもりでいた。とりわけ狙っていたのが日産の電気自動車の技術だったとみられる。
ルノーと日産、三菱自動車の3社連合の「皇帝」だったカルロス・ゴーンは、2018年春にルノーCEOの職が任期切れとなるはずだった。その任期延長をマクロン大統領に認めてもらう代わりに、在任中に両社の経営統合に道筋をつけるようマクロンから求められていた。ゴーンは2018年9月の日産の取締役会で、「ルノー、三菱自動車とのアライアンスがいまのままでいいのか。フランスの要求を無視することもできるし、議論することもできる」という言い回しで、経営統合の検討開始に言及している。後に明らかになるが、イタリアのフィアットとアメリカのクライスラーからなるFCAを含めた大掛かりな再編策が当時、ゴーンの頭の中では構想されていた。
日産の専務執行役員のハリ・ナダはこの年、「ゴーンの日産退任と経営統合が同時に行われ、長年、検討されてきたスキームが実行されるだろう」と思っていた。長年、検討されてきたスキームとは、ゴーンが日本の個別報酬開示制度を免れるため、未払いとなっていた報酬を日産がひそかにゴーンに支払う方策のことだった。
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