小此木潔(おこのぎ・きよし) ジャーナリスト、元上智大学教授
群馬県生まれ。1975年朝日新聞入社。経済部員、ニューヨーク支局員などを経て、論説委員、編集委員を務めた。2014~22年3月、上智大学教授(政策ジャーナリズム論)。著書に『財政構造改革』『消費税をどうするか』(いずれも岩波新書)、『デフレ論争のABC』(岩波ブックレット)など。監訳書に『危機と決断―バーナンキ回顧録』(角川書店)。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「ケインズ」の有用性と金融資本主義の限界
2022年のノーベル経済学賞が12月10日、スウェーデンのストックホルムで米連邦準備制度理事会(FRB)の元議長ベン・バーナンキ氏ら3人に授与された。金融危機への対処法を改善した功績によるものだ。バーナンキ氏は同日の晩餐会のスピーチで「無知や錯誤は大きな被害を引き起こすが、経済の分野ではそれが金融危機や経済不況の形をとる」と、経済学に裏打ちされた政策の意義を語った。
2008年リーマン・ショック時の米国の中央銀行トップとして危機に立ち向かい、収拾した自負がみなぎる言葉だ。
しかし、世界的危機が過去のものになったわけではなく、むしろ繰り返されるのがグローバル化の時代だ。バーナンキ氏の受賞は、経済学と政策および経済システムをどのように磨き上げて今後の危機に備えるか、について考える契機を我々に提供している。
FRB議長としてのバーナンキ氏の貢献を一言でいえば、リーマン・ショックで世界が再び大恐慌に陥るのを防いだということだ。
彼は大恐慌の優れた研究者であり、その知見が危機のさなかで生かされたことによって産業の崩壊や大量失業を防いだ。そのご褒美が今度のノーベル経済学賞と言ってもいいくらいだ。