小林美希(こばやし・みき) 労働経済ジャーナリスト
1975年、茨城県生まれ。茨城県立水戸第一高、神戸大学法学部を卒業。株式新聞社、毎日新聞社『エコノミスト』編集部(契約社員)を経て、2007年よりフリーのジャーナリスト。就職氷河期世代の雇用問題、保育や看護の分野がライフワーク。『夫に死んでほしい妻たち』(朝日新聞出版)、『ルポ看護の質』『ルポ保育格差』(岩波新書)、『年収443万円』(講談社現代新書)など著書多数。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「絶対的貧困」ではないが生活はギリギリ、将来への不安がのしかかる
続く第二部では、平均年収を大きく下回る深刻な生活実態を追った。シングルマザーである、子どもに障害がある、親の介護を担うなど、家族の状況で働き方に制約がつきやすいと正社員として働くことができず、低賃金にとどまりやすい。新型コロナウイルスの感染拡大の影響による失業も深刻で、これらは誰にでも起こる可能性があるが、社会のセーフティネットは脆弱だ。
大学の非常勤講師の男性(56)の年収は、約200万円にとどまる。大学院に通っていた時の奨学金の返済が250万円も残っていることから収入を増やしたいが、同居する母が認知症のため、母を家に置いては出られない。週3日のデイサービスがある日に集中して、仕事や家事をこなすのがやっとだ。
奨学金の返済ができず、住民税や年金保険料も未納の状態。家計が足りず、カードローンを使って自転車操業する。「年金保険料の未納期間があるので、年金受給は諦めています。自分の老後は、生活保護を申請するかもしれない」と話す男性の姿は、背後に控える就職氷河期世代の近未来となる可能性のある問題だ。
就職氷河期世代の40代だけでも約400万人の非正社員がいて、35~54歳で見れば758万人の非正社員が存在する(総務省「労働力調査」2021年)。人口ボリュームのある団塊世代(1947~49年生まれ)の現在の人口、約600万人を超える。
日本総研の下田裕介主任研究員の試算では、就職氷河期世代のうち高齢貧困に陥る可能性があるのは135万人で、存命のうち生活保護を受給し続ければ約27兆5000億円が必要になるとしている。今、ギリギリの生活を送っている中間層にとっても、自身や家族が健康を損なう、夫婦のどちらかの収入がなくなるなどすれば、他人事ではない。
なぜ、このような状況に陥ってしまったのか。その大きな要因となるのは、