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日本にも大地に根差した酪農がある!

山地酪農こそ酪農の王道だ

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 2022年11月23日付け朝日新聞(朝刊)は、「酪農 今のままでいいの?」と題して、飼料高騰に影響を受けない「山地酪農」に取り組んでいる農家(中洞正氏)へのインタビューと山地酪農に批判的な農業経済学者の意見を紹介した。さらに、12月1日の同紙(夕刊)は神奈川県西部で山地酪農に取り組んでいる女性酪農家の記事を掲載している。

 農林水産省や農業団体の言っていることを批判なく伝えたり、輸入飼料の価格上昇で酪農経営が苦しいと述べるだけの報道が目立つ中で、出色の記事だった。日本の酪農や畜産のあるべき姿に関する判断材料を国民に提供したことを評価したい。

育ててきた牛をなでる中洞正さん=岩手県岩泉町の「中洞牧場」、東野真和撮影 2022年10月24日拡大育ててきた牛をなでる中洞正さん=岩手県岩泉町の「中洞牧場」、2022年10月

酪農家が使う2種類のエサ

 山地酪農とは何かを説明する前に、前回の記事「酪農経営は本当に苦しいのか?」(2022年12月26日付)と重複するが、酪農家は2種類のエサを使っていることを説明したい。山地酪農と一般の酪農の大きな違いは、エサの違いと言ってもよいからである。

 反芻動物の牛は草を食べてきた。牧草やワラなど繊維質の多いエサを「粗飼料」という。ニュージーランドは、牧草だけをエサにしている。粗飼料は、牛乳の中の乳脂肪分を上げる効果がある。

 これに対して、トウモロコシや大麦といった穀物、魚粉、大豆かすなど、タンパク質、炭水化物、脂肪などを多く含む飼料を「濃厚飼料」という。日本の飼料産業は、アメリカなどから輸入したトウモロコシなどの濃厚飼料に他の補助的な栄養素(飼料添加物)を加えた「配合飼料」を製造し、畜産とともに大きく発展した。土地資源に乏しい都府県の酪農は、これを牛に与えている。濃厚飼料は乳量を増やす効果がある。

 国産の米や小麦などを高い関税などで保護する一方、エサ用の穀物は、国内生産をあきらめ、すべて安価な輸入に依存してきた。畜産経営にとって、そのほうが安上がりだったからである。都府県の酪農は、粗飼料さえも輸入に依存している。

日本の畜産物の原産地はアメリカだ

 土地資源に比較的恵まれている北海道でも、飼っている頭数が多くなるにつれ、濃厚飼料や配合飼料をエサとして使うようになってきている。本来ならば、草地を用意してから、それに見合う牛を飼養すべきなのに、日本の酪農は発想が逆転している。

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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