日本経済の再生に残された時間は?
2022年12月30日
年の瀬のせまった12月20日。金融市場に衝撃が走った。市場の想定に反して、日本銀行が金融政策を変更したのだ。大規模金融緩和策の一つとして抑えてきた長期金利の上限を、これまでの「0.25%程度」から「0.5%程度」へ引き上げた。今回の決定は事実上の利上げを意味していて、住宅ローン金利が上昇すると心配する人々も多い。その一方でドル円は137円台から133円台に一気に円高に進んだ。円安による物価高に苦しんでいた消費者にとっては嬉しい話にも聞こえる。さて、今回の日銀の政策変更が示すものは何なのだろうか。
日銀は、金融政策決定会合の結果を声明文で発表している。その文章は、「日銀文学」とも揶揄される難解なもので、前回の声明文とのわずかな差分や行間を読まないと理解できない。わかりにくいながらも、その文章には高潔さがあり、日銀の強い意志や一貫した主張が読み取れるものだ。
ところが、今回の文章から見えてきたものは、事実上市場への降伏を示す白旗およびそれを覆い隠すための自己正当化であり、高潔さは消えていた。日銀文学の終焉を感じた。
今回の声明文や日銀総裁の会見を表面的に捉えると、長期金利の変動幅を、従来の±0.25%程度から±0.5% 程度に拡大しただけで、金利の中央値は変わっていない。この変更は市場のボラティリティ(変動幅)の上昇に伴ったものだと言う。
しかし、これは建前でしかない。長期金利(10年国債金利)は+0.25%に張り付いており、その変動幅を広げることは事実上の利上げである。また、日銀が押さえつけている10年金利が、他の年限の金利(20年国債金利や、30年国債金利、国債先物が示す7年金利など)に比べて低くなっており、イールドカーブ(償還期限ごとの金利曲線)の形状がいびつになっていることが市場機能を失っていると認識しているとのことだった。
今年に入ってから国債市場ではイールドカーブ全体に上昇圧力が高まっていた。それに対抗する形で日銀は10年国債を購入することで10年金利を押し下げていたのだが、この声明文で、日銀自身の行動が市場機能を失わせていたと認めたようなものだ。これで日銀は市場をコントロールする正当性を失った。今後も、市場の値動きを通じた利上げ要請があれば、応じざるをえなくなるだろう。市場に白旗を上げたのだ。
不幸中の幸いだったのは、政策を変更したタイミングだ。国債先物の限月交代直後であり、欧米のクリスマス休暇期間でもあったことから、外国人投資家の空売りポジションも少なく、市場への悪影響は少なかったと考えられる。
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