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財政民主主義を機能させ、「平和の配当」を目指す

膨張予算、「禁じ手」犯す日銀、その罪をただす年に

小此木潔 ジャーナリスト、元上智大学教授

 財政赤字など怖くない、と言わんばかりに膨張した2023年度政府予算案を政府が閣議決定した。114兆円の規模は過去最大。債務残高は国内総生産(GDP)の2・6倍にも達する見込みだ。財政の膨張を許したのは、掟破りの手法で国債を買い支えている日本銀行であり、そうさせた政治の罪は重い。こんな予算編成が続けば財政悪化に拍車がかかり、増税が政治日程にのぼるのは避けられない。1月から始まる通常国会は、これまで眠り込んでいた財政民主主義を機能させ、歳出を厳しく吟味する場にしたい。

過大な防衛費、原発に固執は「賢くない」支出

 政府予算のなかで突出した伸び率を示した防衛費は米軍再編関係経費を含めて6兆8000億円余で、前年度当初比1兆4000億円(26%)も増えた。

 その中身も驚くべきことに、射程1600キロの米国製巡航ミサイル「トマホーク」取得費2000億余円計上。専守防衛に抵触するから保有しないと歴代政権が説明してきた敵基地攻撃能力としての長距離ミサイルを「反撃能力」と言い換え、配備する。取得数は明らかにしていない。

拡大発射される米国のミサイル「トマホーク」
 日本の長距離ミサイル保有については、米紙ニューヨーク・タイムズが2021年4月の日米首脳会談に際して、米バイデン政権が期待している同盟強化の一環であり、中国に対抗する軍備として重要視されていることを記事にしていた。

 その4年ほど前には、米政府が水面下で日本に巡航ミサイル保有を働きかけているという記事が複数の日本メディアに出ていた。米国の要請を背景に従来の専守防衛の枠を踏み越える構図で、中国との軍備拡大競争の泥沼にはまり込む危険がある。そうなれば防衛費はさらに膨張し、最大の貿易相手国である中国との関係悪化で日本は長期にわたり財政支出の重荷や経済摩擦リスクにさらされ、国民の負担と危険増大に苦しむ。

 ミサイルが象徴する防衛費の突出について、海上自衛隊現場トップの自衛艦隊司令官を務めた香田洋二氏は、朝日新聞のインタビューに対し「身の丈を超えていると思えてならない」と述べ、「GDPの2%」という規模ありきで決めた弊害を指摘した(防衛費増額への警鐘 元海上自衛隊自衛艦隊司令官・香田洋二さん)。

拡大処理された原発事故による汚染水タンクが福島第一原発の構内に並ぶ=2022年2月11日、朝日新聞社ヘリから
 一方、脱炭素に向けて再生可能エネルギー開発のための予算は洋上風力発電の支援や電気自動車購入補助などを盛り込んだが、取り組みが遅い上に規模が小さい。しかも脱原発が進めば新エネルギーの市場が拡大する効果を期待できたが、政府が原発推進を打ち出したので、新エネルギー産業の成長はその分だけ阻害されることになった。

 20世紀を代表する経済学者ケインズは、国民所得を増やす公共投資などを「ワイズ・スペンディング」(賢い支出)と呼んだ。赤字財政の下でなおさら賢い支出が求められるが、身の丈を超えるお金を防衛に注ぎ込んだり、原発に固執したりする政策については、賢い支出に逆行すると言って、再考を促すのではないか。


筆者

小此木潔

小此木潔(おこのぎ・きよし) ジャーナリスト、元上智大学教授

群馬県生まれ。1975年朝日新聞入社。経済部員、ニューヨーク支局員などを経て、論説委員、編集委員を務めた。2014~22年3月、上智大学教授(政策ジャーナリズム論)。著書に『財政構造改革』『消費税をどうするか』(いずれも岩波新書)、『デフレ論争のABC』(岩波ブックレット)など。監訳書に『危機と決断―バーナンキ回顧録』(角川書店)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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