アニマルウェルフェアの観点から日本の酪農を問い直す
2023年01月20日
これまで、企業は生産したモノやサービス(プロダクト)の優劣を考慮して活動していればよかった。しかし、現在では、それ以外のさまざまな社会的要求に答える必要が出てきている。
ESGは、「Environment=環境」「Social=社会」「Governance=企業統治」の頭文字である。従来、企業価値を測る方法は業績や財務状況が主だったが、企業の安定的かつ長期的な成長には、環境や社会問題への取り組み、ガバナンスが少なからず影響しているという考えが広まってきた。ESGに対する配慮ができていないと企業の持続的な成長が困難となり企業価値を壊すリスクがあるという考えが投資家の間に浸透し、投資先の判断基準としてESGが考慮されるようになっている。ESGは投資のための基準であるが、投資家がESGを考慮すると、企業もこれを考慮した企業経営を行わざるをえなくなる。
CSR(Corporate Social Responsibility)とは、企業が利益の追求だけでなく、労働者の人権や環境問題への配慮、地域社会への貢献など社会のさまざまな要求に適切に対応しなければならないというものである、これは企業に対する直接的な要求である。
企業活動について、プロダクト自体の特性ではなく、それを提供している企業がESGやCSRにどのように取り組んでいるのか、プロダクトの背景にどのようなストーリーやヒストリーがあるのか、環境負荷をかけないなどの生産方法で提供されているのか、などが重要になっている。つまり、誰によってどのように作られたかなどという、プロセスが重視されるようになっているのである。
日本ではまだなじみが薄いが、欧米においては、酪農・畜産のプロセス(生産方法)としてアニマルウェルフェアが重視されるようになっている。
アニマルウェルフェアについて、一般社団法人アニマルウェルフェア畜産協会のウェブサイトの説明がわかりやすいので、少し長くなるが、紹介したい。
アニマルウェルフェア(Animal Welfare・家畜福祉)とは、感受性を持つ生き物としての家畜に心を寄り添わせ、誕生から死を迎えるまでの間、ストレスをできる限り少なく、行動要求が満たされた、健康的な暮らしができる飼育方法をめざす畜産のあり方です。
近代的な集約畜産は国民の食を支えてきましたが、生産効率を重視した品種改良や、大量の濃厚飼料を与えた飼育管理などによって、家畜に過度の負担を強いてきた実態があります。
生産性を重視する集約的畜産では、多くの濃厚飼料(穀物など)を与え、行動を強く制限する施設で家畜を飼育しています。こうすることで私たちは、安い畜産物を大量に生産することを可能としてきました。しかしその一方で、家畜は心身の健康と自然な行動を奪われています。
畜産に関する問題は多くあります。家畜生産のための大量の穀物消費や、大量に排出される糞尿による環境汚染、そしてアニマルウェルフェアもそのひとつです。環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の3つの課題に対する取組みを考慮して投資先を選別するESG投資において、アニマルウェルフェアが重要な評価指標のひとつとなっています。
日本においても、消費者の強い要望からアニマルウェルフェア認証を受けた牛乳が販売されているように、国内におけるアニマルウェルフェアの認知度は確実に高まっています。SDGs(持続可能な開発目標)の12番目の目標は、アニマルウェルフェアと関係のある「つくる責任、つかう責任」です。こうしたエシカル消費(倫理的消費)の推進とともに、アニマルウェルフェアへのさらなる需要の高まりが予測されます。
アニマルウェルフェアでは次の“5つの自由”が原則として掲げられる。これは1960年代にイギリスで唱えられ、議会で定められたものである。
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