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ある酪農従事者の告発~この国で乳牛はどう扱われているのか

アニマルウェルフェアの観点から日本の酪農を問い直す

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

世界はプロダクトからプロセス重視へ

 これまで、企業は生産したモノやサービス(プロダクト)の優劣を考慮して活動していればよかった。しかし、現在では、それ以外のさまざまな社会的要求に答える必要が出てきている。

 ESGは、「Environment=環境」「Social=社会」「Governance=企業統治」の頭文字である。従来、企業価値を測る方法は業績や財務状況が主だったが、企業の安定的かつ長期的な成長には、環境や社会問題への取り組み、ガバナンスが少なからず影響しているという考えが広まってきた。ESGに対する配慮ができていないと企業の持続的な成長が困難となり企業価値を壊すリスクがあるという考えが投資家の間に浸透し、投資先の判断基準としてESGが考慮されるようになっている。ESGは投資のための基準であるが、投資家がESGを考慮すると、企業もこれを考慮した企業経営を行わざるをえなくなる。

 CSR(Corporate Social Responsibility)とは、企業が利益の追求だけでなく、労働者の人権や環境問題への配慮、地域社会への貢献など社会のさまざまな要求に適切に対応しなければならないというものである、これは企業に対する直接的な要求である。

 企業活動について、プロダクト自体の特性ではなく、それを提供している企業がESGやCSRにどのように取り組んでいるのか、プロダクトの背景にどのようなストーリーやヒストリーがあるのか、環境負荷をかけないなどの生産方法で提供されているのか、などが重要になっている。つまり、誰によってどのように作られたかなどという、プロセスが重視されるようになっているのである。

写真素材ID: 709386523
緑の野原と青い空に牛。 Guitar photographer
拡大 緑の野原と青い空に牛 Guitar photographer/shutterstock.com

アニマルウェルフェアとは何か

 日本ではまだなじみが薄いが、欧米においては、酪農・畜産のプロセス(生産方法)としてアニマルウェルフェアが重視されるようになっている。

 アニマルウェルフェアについて、一般社団法人アニマルウェルフェア畜産協会のウェブサイトの説明がわかりやすいので、少し長くなるが、紹介したい。

 アニマルウェルフェア(Animal Welfare・家畜福祉)とは、感受性を持つ生き物としての家畜に心を寄り添わせ、誕生から死を迎えるまでの間、ストレスをできる限り少なく、行動要求が満たされた、健康的な暮らしができる飼育方法をめざす畜産のあり方です。
 近代的な集約畜産は国民の食を支えてきましたが、生産効率を重視した品種改良や、大量の濃厚飼料を与えた飼育管理などによって、家畜に過度の負担を強いてきた実態があります。
 生産性を重視する集約的畜産では、多くの濃厚飼料(穀物など)を与え、行動を強く制限する施設で家畜を飼育しています。こうすることで私たちは、安い畜産物を大量に生産することを可能としてきました。しかしその一方で、家畜は心身の健康と自然な行動を奪われています。
 畜産に関する問題は多くあります。家畜生産のための大量の穀物消費や、大量に排出される糞尿による環境汚染、そしてアニマルウェルフェアもそのひとつです。環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の3つの課題に対する取組みを考慮して投資先を選別するESG投資において、アニマルウェルフェアが重要な評価指標のひとつとなっています。
 日本においても、消費者の強い要望からアニマルウェルフェア認証を受けた牛乳が販売されているように、国内におけるアニマルウェルフェアの認知度は確実に高まっています。SDGs(持続可能な開発目標)の12番目の目標は、アニマルウェルフェアと関係のある「つくる責任、つかう責任」です。こうしたエシカル消費(倫理的消費)の推進とともに、アニマルウェルフェアへのさらなる需要の高まりが予測されます。

 アニマルウェルフェアでは次の“5つの自由”が原則として掲げられる。これは1960年代にイギリスで唱えられ、議会で定められたものである。

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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