環境、技術、人柄……毎日のお米をより楽しむために知るべきこと
2023年01月24日
ワインの世界には「テロワール」という言葉がある。原料となるぶどうを栽培する地域の土壌、地形、気候といった「地域特性」「自然環境要因」のことで、このテロワールがワインの味を左右すると言われている。
では、稲作においても「テロワール」は存在するのだろうか。
ぶどうは土壌の影響を受けやすい品種とそうでない品種があったり、栽培技術や収穫した年の気候の影響によっても味わいが違ったりと、テロワールが味わいのすべてを決めるわけではないという。
しかしながら、ぶどうは一度植え付けたら長期にわたって収穫できる「永年作物」だ。
一方で、稲は毎年春に田んぼに植えられ、秋には収穫される「単年作物」であるため、田んぼで稲が育つ期間はたった4~5カ月ほど。地中に深く根を張り巡らせていくぶどうの木が地層の影響を受けやすいことに対して、稲は収穫されるたびにその切り株(稲株)は土壌にすき込まれ、翌年には新しい苗が植えられる。そして水田は取水と排水を繰り返しているため、水に含まれる養分の影響も大きい。
こうして見ていくと、土壌による食味への影響はあれども、その度合いはぶどうほど大きくないように感じられる。気候の影響はもちろん大きいが、毎年の土作り、苗作り、田植え時期、水管理、農薬や肥料、刈り取り時期、乾燥調整といった生産者の手の掛け方による影響も大きいと言えるだろう。
私が住んでいる福島県でいえば、浜通り地域・中通り地域・会津地域のコシヒカリは食味の傾向が違うので、家族で食事をするときに「これは会津コシヒカリっぽい」とか「郡山コシヒカリっぽいね」といった会話をすることもある。一見これが「テロワール」のようにも思えるが、反対に「会津コシヒカリはすべてこういう食味」「郡山のコシヒカリはすべてこういう食味」というわけではないこともわかっている。「会津コシヒカリっぽい」「郡山コシヒカリっぽい」はこれまで食べたお米の非常にざっくりとした食味傾向でしかないのだ。
2007年にお米の「テロワール」をテーマに勉強会を主催したことがある静岡県の「安東米店」の店主・長坂潔曉さんは、「『一つのおいしさ』への追求が盛んになったことによる均質化へのアンチテーゼとして『テロワール』という言葉を使いました」と当時を振り返る。
肥料や栽培技術がどんなに均質化したとしても、それでも違いが出る。「その『何か』を捉えて顕在化する」ことを長坂さんは仲間たちと勉強会を主催しながらこれまで考え続けてきた。
私は2022年秋に開かれた第30回目の勉強会に出席。恒例となっている巨大胚芽の玄米専用米である「カミアカリ」という品種の計7産地のお米の食べ比べをした。2018年から参加して今回が5回目だったが全体的に年々おとなしく似通った味わいになってきていると感じた。かつては、「パクチーのような香りのもの」「とうもろこしのような穀物感の奥に甘さや香ばしさがあるもの」「堆肥のような香りのもの」「冷めるとエグミを感じるもの」「胚芽のザクザクとした食感があるもの」「歯ごたえが弱いもの」「水っぽいもの」など、それはもう多彩だったのだが。参加者たちの間でも、似通った食味の原因は栽培技術の向上か、はたまた個性の埋没かなどと議論になったが、答えは出ていない。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください