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岸田首相「異次元の少子化対策」、財源はどうする?

防衛費倍増とセットで大増税か、世論は反発

小此木潔 ジャーナリスト、元上智大学教授

財源を語らない「異次元の対策」

 年頭に記者会見した岸田文雄首相が「異次元の少子化対策」を今年の大きな挑戦だと述べた。安倍政権の「異次元の金融緩和」に倣った表現のようだが、かねて「子ども予算倍増」を語ってきた首相は、2023年の「骨太の方針」に合わせて政策の中身と財源を示すという。この夏にも大掛かりな対策と、その財源となる増税の姿が見えてくるわけだ。

 防衛費倍増に伴う負担増と合わせ、大増税が国民に降りかかるとなれば、長期的な消費不振などが懸念され、日本経済の先行きに暗雲が立ち込める。防衛費と同様、倍増を先に決めて財源は後回し、ふと気づけば「異次元の増税」などということにならないよう、国民とメディアは大いに監視を強める必要がある。

 1月4日に三重県伊勢市で記者会見した岸田首相は、少子化対策について、以下のように述べた。

 本年4月に発足するこども家庭庁の下で、今の社会において必要とされるこども政策を体系的に取りまとめた上で、6月の骨太方針までに将来的なこども予算倍増に向けた大枠を提示していきます。(中略)対策の基本的な方向性は3つです。第1に、児童手当を中心に経済的支援を強化することです。第2に、学童保育や病児保育を含め、幼児教育や保育サービスの量・質両面からの強化を進めるとともに、伴走型支援、産後ケア、一時預かりなど、全ての子育て家庭を対象としたサービスの拡充を進めます。そして第3に、働き方改革の推進とそれを支える制度の充実です。女性の就労は確実に増加しました。しかし、女性の正規雇用におけるL字カーブは是正されておらず、その修正が不可欠です。その際、育児休業制度の強化も検討しなければなりません。小倉大臣の下、異次元の少子化対策に挑戦し、若い世代からようやく政府が本気になったと思っていただける構造を実現するべく、大胆に検討を進めてもらいます。

年頭の記者会見をする岸田文雄首相=2023年1月4日、三重県伊勢市

 この会見で少子化対策の財源を語らなかった首相は、1月8日のNHK日曜討論で「少子化対策について、給付と負担の問題や社会保険のあり方なども含め、さまざまな財源について考えていかなければならずきめ細かな議論をしていきたい。それは政策に見合った財源でなければならず、政策の整理をまず行ったうえで予算や財源の議論を進めていきたい」と述べた。

 日曜討論では、財源などをめぐって他の出席者から次のような発言があった。

公明党の山口那津男代表
「財源についても、責任を持って見通しを立てることが必要だ。保険も含め、幅広く財源を確保していくべきだ」

立憲民主党・泉健太代表
「子どもや教育の政策は未来への投資でもあり、財源として国債を考えてもよい。歳出改革と国債を前提に考えていきたい」

日本維新の会・馬場伸幸代表
「幼児教育から高等教育まですべてを無償化することが必要だ。税と社会保障と働き方の3つをパッケージで改革すべきで、財源問題は、借金や負担増という考え方だけでは立ち行かなくなる」

共産党・志位和夫委員長
「大学の学費の無償化を目指して、まずは半分にし、入学金を廃止すべきだ。消費税の増税こそ少子化を加速させた元凶の1つで、5%に減税し、富裕層の負担や大軍拡の中止で財源をつくるべきだ」

国民民主党・玉木雄一郎代表
「教育国債の発行で子育てや教育の予算を倍増し、所得制限を撤廃すべきだ。賃金が上がると支援の対象から外れるので、頑張って納税することが『子育て罰』になるのは見直すべきだ」

れいわ新選組・櫛渕万里共同代表
「消費税を増税すれば少子化はさらに加速し、国家の自滅の道だ。子ども国債や教育国債を発行して徹底的に財政出動を行い、最大の投資をすることが必要だ」

子ども政策、挑戦に意義、ただし効果は?

 首相は国会審議などで「子ども予算の将来的な倍増を目指す」と述べてきた。

 2022年10月17日の衆院予算委員会の答弁では、子ども政策の予算について、「来年度の骨太の方針(経済財政運営との基本方針)に倍増への道筋を示す」と表明し、2023年夏までに財源とあわせて明らかにするむね表明していた。この経緯からして、異次元の少子化対策の内容は、子ども予算の倍増を柱にしたものとなることはほぼ確実と言えよう。

 骨太の方針は例年6月ごろ閣議決定される。首相は、有識者でつくる「全世代型社会保障構築会議」で、財源については「社会全体でどのように負担するのか、考え方を整理をする」と話していた。また、自治体ごとにばらつきがある子どもの医療費助成を国の制度とすることは「厳しい医療保険財政を勘案すると課題は大きい」と指摘し、「改めて社会全体として考えるべき課題」だとしていた。

 全世代型社会保障構築会議は2021年11月に発足し、12月16日には「全世代で支え合い、人口減少・超高齢社会の課題を克服する」とうたった報告書をまとめた。

 報告書では少子化を「国の存続にかかわる危機」とし、取り組むべき課題を列挙。仕事と子育ての両立を支援するため、雇用保険の育児休業給付の対象外となっている人々への新たな給付金の創設や育休後の時短勤務に出す給付金の創設などが提案された。

Arak Rattanawijittakorn/shutterstock.com
 2023年に早急に具体化を進めるべき項目として、「骨太の方針2022にもあるように、こども・子育て支援の充実を支える安定的な財源について、企業を含め社会全体で連帯し、公平な立場で、広く負担し、支える仕組みの検討」「0~2歳児に焦点を当てた切れ目のない包括的支援の早期構築後の課題として、児童手当の拡充などについて恒久的な財源とあわせて検討」との表現を盛り込んだ。

 少子化の流れを反転させるには、小手先の政策ではどうにもならず、持続的な賃金上昇と経済成長といったマクロ経済的要因、さらに子育てを男女が均等に担う社会的慣行などの環境が必要だ。政策は所詮その環境整備の一助にすぎないので限界はあるが、挑戦する意義は小さくない。とはいえ、その費用と効果について考えたいものだ。

子ども予算倍増なら、財源5兆円、どう賄う?

 子ども予算の倍増を実現するには、高い壁がある。2023年度のこども家庭庁の予算案は約4・8兆円。これを倍増するには約5兆円の増額が必要になるのは明らかだ。

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