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ゼロ成長、ゼロ金利は必然。これから世界は「日本化」していく~水野和夫・法政大教授に聞く(後編)

より遠く、より速く、はもう要らない。無用な拡大をやめ適正利潤を目指すべきだ

原真人 朝日新聞 編集委員

 人類史に精通する経済学者、水野和夫・法政大教授は、アベノミクスについて「資本家のための政策だった」と指摘し、すでに賞味期限の切れた「近代」への幻影を追うドン・キホーティズムだと一刀両断する。資本主義の矛盾が世界中で噴出するなか、「成長」という強迫観念からも脱却すべきだと訴える水野教授に、前編に引き続き聞く。

水野和夫・法政大教授水野和夫・法政大教授

※連載「アベノミクスとは何だったのか」の過去記事はこちらからお読みいただけます。

利潤を極大化しない交易をすればいい

――アベノミクスはやりすぎでしたが、資本主義で豊かな人口が増え、おかげで寿命が延び、生活水準は上がった面はあります。戦争も減りました。資本主義をやめたら、また暗黒、戦争、貧困の時代になりませんか。

水野 ロシアのプーチン大統領は、国内が貧しいから内政の失敗を国外に目を向けさせてごまかそうとしました。しかし、欧州、米国、日本のような国々はもはや外に領土を取りに行く必要はないし、資本をこれ以上ふやす必要もない。まだ貧しい国は資本主義をやってもいいが、必要なものをどこにいても調達できるようになった日本のような社会では、もはや資本主義は必要ないのではないでしょうか。

――もしかすると米国なら食料とエネルギーが自給できるので可能かもしれません。しかし日本は多くを輸入に頼っています。自由貿易とか、資本主義がない世界では供給能力を満たせなくなってしまうでしょう。日本は資本主義をやめられないのではないですか。

水野 資本主義というのは利潤の極大化のことです。しかし自由貿易は利潤を生まなくたってできる。必要なものを農業国から買ってくることはできます。利潤を増やさなければ単なる交易であり、自由貿易は続ければいい。

――貿易を担うのは誰ですか。

水野 企業です。

――企業が自由貿易を担う段階で、それは資本主義ではないのですか。

水野 要するに必要なものだけを作る企業でいいということです。

――ソ連時代の計画経済に戻ってしまうような感じです。

水野 計画経済だと1年間の生産量を中央官僚が決めます。私が考えているのは、市場は残すけれど、企業がROEを8%にするほど利潤をあげなくても十分という世界です。

――企業が利益を極大化するのでなく、ほどほどで止めておけと?

水野 ケインズも資本の利潤率は土地の利回りより低くていい、と言っていました。つまり、ほどほどでいい、と。

――日本企業は欧米企業に比べてROEが低いのが問題だと言われてきましたが、実は日本企業のその状態の方が良かったということですか。

水野 今となってみれば、そうですね。土地の利回り、たとえば最近のREIT(不動産投資信託)の利回りが3~4%なので、ケインズ流に言うなら資本の利潤率は3%以下でいいということになります。伊藤レポートが出た当時の日本企業のROEは5~6%でしたから、むしろそれを減らせという報告書にしなければいけなかった。逆行していました。

ゼロインフレ・ゼロ成長の日本社会がベターだった

――日本企業は利幅が小さく、国内で価格も上げられない。物価も抑制的です。昨今それがよろしくないということになっていました。水野さんが描く世界は、ベストでないにしても相対的には欧米に比べて日本のほうが良かったということでしょうか。

水野 そのほうが良かったと思います。米国の中央銀行FRB(連邦準備制度理事会)のグリースパン元議長が言っていたのは、「物価を意識しない水準が望ましい物価」ということです。究極はゼロ%インフレです。インフレになると企業は売り惜しみをします。インフレがなければ資源の無駄遣いもなくなる。急いで買う必要も、売り惜しみも必要なくなります。日本ではバブル崩壊後、結果的にそれが実現していました。無理に2%インフレ目標を掲げて、物価を引き上げようとしたのがアベノミクスでした。

――ゼロ金利・ゼロインフレ・ゼロ成長は欧米から「ジャパニフィケーション(日本化)」と言われ、避けるべき状態と言われてきました。むしろそれが望ましい状態だということですか。

水野 そうです。「ジャパニフィケーション」とは、ヨーロッパが発明した「モダニゼーション」(近代化)と資本主義が上手く機能していないということを覆い隠すために使用している言葉です。日本のバブル崩壊後の姿は、より欧米の資本主義を忠実に実行してきた結果ですから。

――19世紀の英国の思想家ジョン・スチュワート・ミル(1806-1873)は、経済成長は最終的に「定常状態」となると考えたそうです。水野さんも同じ考えですか。

水野 そうです。いま起きているのは(成長重視の)新古典派の世界でなく、ミルやリカードら古典派学者が言っていた世界がようやく百数十年たって実現しつつあるということです。

――私も無理に成長率を引き上げるのはどうかと思います。ただ、相対的に他の国より成長率が低いと、国家としての力が相対的に弱くなります。他の国から攻められるような時には不利になるし、いざという時に備えて力を蓄えておかなきゃいけないというのも成長主義にはあると思います。日本だけが成長を諦め、お隣の中国がもっと大きくなってしまったら、日本は安全保障でも脅かされませんか。

水野 日本はたぶん

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