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ゼロ成長、ゼロ金利は必然。これから世界は「日本化」していく~水野和夫・法政大教授に聞く(後編)

より遠く、より速く、はもう要らない。無用な拡大をやめ適正利潤を目指すべきだ

原真人 朝日新聞 編集委員

ゼロインフレ・ゼロ成長の日本社会がベターだった

――日本企業は利幅が小さく、国内で価格も上げられない。物価も抑制的です。昨今それがよろしくないということになっていました。水野さんが描く世界は、ベストでないにしても相対的には欧米に比べて日本のほうが良かったということでしょうか。

水野 そのほうが良かったと思います。米国の中央銀行FRB(連邦準備制度理事会)のグリースパン元議長が言っていたのは、「物価を意識しない水準が望ましい物価」ということです。究極はゼロ%インフレです。インフレになると企業は売り惜しみをします。インフレがなければ資源の無駄遣いもなくなる。急いで買う必要も、売り惜しみも必要なくなります。日本ではバブル崩壊後、結果的にそれが実現していました。無理に2%インフレ目標を掲げて、物価を引き上げようとしたのがアベノミクスでした。

――ゼロ金利・ゼロインフレ・ゼロ成長は欧米から「ジャパニフィケーション(日本化)」と言われ、避けるべき状態と言われてきました。むしろそれが望ましい状態だということですか。

水野 そうです。「ジャパニフィケーション」とは、ヨーロッパが発明した「モダニゼーション」(近代化)と資本主義が上手く機能していないということを覆い隠すために使用している言葉です。日本のバブル崩壊後の姿は、より欧米の資本主義を忠実に実行してきた結果ですから。

――19世紀の英国の思想家ジョン・スチュワート・ミル(1806-1873)は、経済成長は最終的に「定常状態」となると考えたそうです。水野さんも同じ考えですか。

水野 そうです。いま起きているのは(成長重視の)新古典派の世界でなく、ミルやリカードら古典派学者が言っていた世界がようやく百数十年たって実現しつつあるということです。

――私も無理に成長率を引き上げるのはどうかと思います。ただ、相対的に他の国より成長率が低いと、国家としての力が相対的に弱くなります。他の国から攻められるような時には不利になるし、いざという時に備えて力を蓄えておかなきゃいけないというのも成長主義にはあると思います。日本だけが成長を諦め、お隣の中国がもっと大きくなってしまったら、日本は安全保障でも脅かされませんか。

水野 日本はたぶん

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筆者

原真人

原真人(はら・まこと) 朝日新聞 編集委員

1988年に朝日新聞社に入社。経済部デスク、論説委員、書評委員、朝刊の当番編集長などを経て、現在は経済分野を担当する編集委員。コラム「多事奏論」を執筆中。著書に『日本銀行「失敗の本質」』(小学館新書)、『日本「一発屋」論 バブル・成長信仰・アベノミクス』(朝日新書)、『経済ニュースの裏読み深読み』(朝日新聞出版)。共著に『失われた〈20年〉』(岩波書店)、「不安大国ニッポン」(朝日新聞出版)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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