小此木潔(おこのぎ・きよし) ジャーナリスト、元上智大学教授
群馬県生まれ。1975年朝日新聞入社。経済部員、ニューヨーク支局員などを経て、論説委員、編集委員を務めた。2014~22年3月、上智大学教授(政策ジャーナリズム論)。著書に『財政構造改革』『消費税をどうするか』(いずれも岩波新書)、『デフレ論争のABC』(岩波ブックレット)など。監訳書に『危機と決断―バーナンキ回顧録』(角川書店)。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「トマホーク400発」より有効な政策がある
防衛費倍増の路線を盛り込んだ2023年度政府予算案を衆院で可決させた岸田政権は、子育て予算の倍増については具体的な展望を持っていないことが国会の質疑などで明らかになった。
「大砲もバターも」とでも言いたげな岸田流だが、実際には「バターより大砲」の道を突き進む姿勢に見える。日本という国のかたちも人々の生活も大きく変えてしまう危うい状況を前に、私たちはいったん立ち止まり、考えるべき時ではないだろうか。
「防衛力強化と比較しても、子ども・子育て政策への取り組みが決して見劣りしない」
2023年2月22日の衆院予算委員会で立憲民主党の泉健太代表の質問に対し、岸田文雄首相の答弁は、「大砲もバターも」という大風呂敷を広げるものだった。
だが、実態は看板とは異なる。防衛費は国内総生産(GDP)比で1%程度としてきた平和国家の目安をうち捨てて2%台とする倍増方針を決めた。数年後には米中に続く世界第三位の防衛支出額になるとみられる。
2023年度政府予算案には、前年度比26・3%増の防衛費6兆8219億円を盛り込んでいる。その象徴は、「反撃力」の名目でこれまで禁じ手としてきた「敵基地攻撃」用のミサイルを大量に保有することである。米国製巡航ミサイル「トマホーク」を「400発」も購入する予定であることを国会答弁でようやく明らかにするとともに「今後は米国の打撃力に完全に依存することはなくなる」と述べたのは、専守防衛からの逸脱だろう。
それに比べ、子育て予算の方は「倍増する」という方針を首相答弁で繰り返しているだけで、何をどのように倍増するのか、説明すらできていない。
首相は「まず中身を具体化しないと、それに伴う予算がどれだけ必要なのか、ベースがはっきりしないのは当然のことだ」と答弁。首相の知恵袋と目される木原誠二官房副長官ですら2月21日のテレビ番組で「子ども予算は、子どもが増えればそれに応じて増えていく」と述べるありさまで、政権の「本気度」すら疑わしい。
首相は「ミサイルも福祉も」と言いたいのだろうが、政府予算案の内実は「福祉よりミサイル」とでも言うべきものになっている。