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「9・11」後の世界を生きる人たちを描いた邦訳2作

佐久間文子 佐久間文子(ライター)

 9・11から10年。この夏、続けて邦訳が出たジョナサン・サフラン・フォア『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(近藤隆文訳、NHK出版)ジョセフ・オニール『ネザーランド』(古屋美登里訳、早川書房)を読んだ。どちらの小説も「9・11後」の世界を生きる人たちを描いている。

 『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』の主人公オスカーは9歳。同時多発テロから1年以上たっても、犠牲となったパパの死を受けいれることができない。テレビを見ることは禁じられているが、ネットを駆使してあの日の映像を探し当ててしまっているから、その不条理な死は少年の心に影を落とし、ことあるごとに傷口が開いてしまう。

 パパが残した1本の鍵の秘密を探るために、オスカーはニューヨーク中を歩き回る(ママはなぜかその冒険に見て見ぬふりをする)。フランス語やスラング、過剰な修飾語(「ありえないほど~」)を多用し、歌うように話し続ける息と息のつぎめに、傷を負った子供の悲鳴が漏れ出ている。

 オスカーの語りの合間に挿入されるのは、第二次大戦中、ドイツのドレスデン爆撃で愛する人を失い、みずからは生き延びた彼の祖父母の数奇な人生だ。再び人を愛することを恐れる祖父は、わが子にあてた手紙に書く。

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