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桑山忠明展と森山大道展、取り合わせの妙

大西若人 朝日新聞編集委員(美術)

 単語を入れ替えるだけで、まるで言葉の意味が違ってしまうことがある。

 例えば、「妙な取り合わせ」と「取り合わせの妙」。評価は180度違う。

 残りの会期わずかだが、大阪・中之島の国立国際美術館では今、2人の現代作家の大規模な個展が同時に開かれている(9月19日まで)。2人とは、現代美術家の桑山忠明(1932年生まれ)と、写真家の森山大道(1938年生まれ)のことだ。

 2人が扱う素材、表現はまるで違う。ニューヨーク在住の桑山は、アルミ板と見まがうように精緻に塗装された木製の板を等間隔でずらりと壁に掛け、緊張感あふれる空間を生み出す。ミニマルな美の極地、ともいえる表現で知られる。対して森山といえば、街を速写し、「アレ、ブレ、ボケ」といわれる粒子の粗い画面に定着させる。『にっぽん劇場写真帖』なんて作品集がある通り、その黒く重い画面は、かなり土俗的でもある。

 つまり、抽象と情念、軽さと重さ、白と黒、と、ことごとく使うべき形容詞が相反する。

 この2つの個展が重なったのは、偶然のこと。会場に足を運ぶまでは、あまりに対照的な2人の組み合わせに、どちらかといえば「妙な取り合わせ」の印象が強かった。

 国立国際美術館は、展示室のすべてが地下にある。桑山展が地下2階、森山展が地下3階。まず桑山展に足を運んだ。

「WHITE 桑山忠明 大阪プロジェクト」(国立国際美術館)=筆者撮影

 入り口正面に壁があり、まず左に足を進めた(実際は、右から回っても構わないらしい)。奥行きが浅く、横に長い展示室の壁に、フレームに入った真っ白な画面が18枚一直線に並ぶ。今回は、アルミ的な表現ではなく、真っ白。確認すると展覧会のタイトルも「WHITE 桑山忠明 大阪プロジェクト」となっている。

 樹脂のように仕上がった画面の中央に、横に一本線が引かれているだけ。それがやや低い位置にずらり並ぶ様に、「やはり桑山ワールドだなあ」と思って、壁を回り込んで裏の展示室に入り、息を飲みそうになった。

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