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向田文学の未来――「江戸」の藤沢周平、「昭和」の向田邦子?

四ノ原恒憲 四ノ原恒憲(朝日新聞文化グループ)

 「突然あらわれてほとんど名人である」。超辛口で知られる山本夏彦翁が、異例の賛美を与えたのが作家、脚本家の向田邦子だった。直木賞受賞からほぼ1年で、これまた飛行機事故で、突然、世を去る。

 あの夏から30年。関連書が次々出版され、原作がNHKで連続ドラマ化されるのは、今年が節目の年であるからでしょう。

1980年、東京・青山の自宅で

 でも、死後このかた、彼女の声価は高まるばかり。念を押して置きますが、週刊誌でエッセーの連載を始める、受賞のほぼ1年前までは、テレビドラマ関係者以外、普通の人々はもちろん、文壇でもほとんど無名だったんですよ。司馬遼太郎や松本清張といった生前から「国民作家」的な重鎮は、別にして、物忘れが昨今、とみに激しいこの国にしては、異例の出来事ではないでしょうか。

 新たに出版された本を読んでみる。『名文探偵、向田邦子の謎を解く』(いそっぷ社)は、向田作品を丁寧に読み直しながら、その作品の魅力をミステリーのように解き明かす。筆者は、脚本家時代、久世光彦と共に、彼女の盟友の一人だった元TBSの演出家、鴨下信一さん。

 『向田邦子のかくれんぼ』(NHK出版)は、主に彼女のテレビドラマを対象に、今のテレビドラマが失ったものを抽出する。筆者は、日本のテレビ批評を先導してきた、佐怒賀三夫さん。『向田邦子の陽射し』(文芸春秋)では、向田作品のどこが素晴らしいかが、まるで、失った恋人や母への愛の言葉のようにつづられている。筆者は爆笑問題の太田光さんだ。

 この3人に共通することは、生前の向田原作のテレビドラマを、リアルタイムで見ていて、さらに向田さんの文壇デビューも、同時代として知っていることだ。今回新装版で出た『向田邦子ふたたび』(文春文庫)も、ほぼ同じような世代の人々の言葉で埋まっている。

 これらの本を通読し、また、向田さんのことを考えるなかで、

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