2011年09月23日
読んでおいたほうがいいマンガ、というのならまあなんとなく、挙げられる。ぼんやりとしているとはいえ、マンガ発展の流れがあって、ソレ的に外せない作品というのがある。例えば、手塚治虫の『新宝島』とか、つげ義春の『ねじ式』、大友克洋の『AKIRA』みたいなマンガだ。でも、そういうことを聞きたいわけじゃないんだよね。
それが、ありがたいことにここ数年はオススメ作に苦労しなかった。村上もとか『JIN-仁-』(集英社)かヤマザキマリ『テルマエ・ロマエ』(エンターブレイン)を読ませておけば、白い目で見られることはなかったから。こんなにススメやすいマンガたちはもしかしたら『ドラえもん』以来かもしれない。
あ、念のために申しあげておくが、「おススメしやすい」と「好き」とは重なりませんから。山口貴由による筋肉断裂面続出の残酷武士道もの『シグルイ』、あるいは、作者の実体験を土台にしたとおぼしき中学生妄想増殖マンガ『悪の華』は大好きだし、傑出した作品だが、おススメをちゅうちょさせるものがある。読んでもらえば分かる。ノークレームでお願いします。
さて、おススメ2作には大きな共通項がある。どちらも主人公が専門職。そして、タイムスリップが物語のキーとなっていること。『JIN-仁-』の南方仁は現代の医者で幕末期の江戸に戻り、われわれの受けている最新医療の知識と技術によって、江戸期に医学の驚異の改新をもたらす。『テルマエ・ロマエ』の主人公でローマ時代の浴場設計技師、ルシウス・モデストゥスはお湯や水を通して現代と古代を行き来し、古代ローマの風呂文化に新風を起こして皇帝・貴族から一般市民に至るまで感嘆の渦に巻き込んでいる最中だ。
いや、もちろん、タイムスリップ、時間旅行はマンガの中では特別珍しい事象ではありません。
楳図かずおの『漂流教室』や細川千恵子『王家の紋章』まで遡らなくても、今だって、ビートルズのコピーバンドが、ご本家の出現直前の日本に時間移動する「僕はビートルズ」や、現代フレンチの料理人が戦国時代に突如現れ、信長の料理番となる「信長のシェフ」といったタイムスリップマンガが週刊誌に連載されている。
そもそもタイムスリップは、SFの起源とともにあるといっても過言ではないジャンルで、英国のH.G.ウェルズが時間旅行小説の祖ともいうべき『タイムマシン』を書いたのが19世紀末。それから、足かけ3世紀にわたって、映画やテレビドラマも含めると、いったいどれくらいこのテーマで作品が送り出されてきたのか、見当さえつかない。
その長大なバベルの資料庫に加わったばかりの、『JIN』と『テルマエ』がなぜ、格別おススメしやすいのか。
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