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“マドンナ”の歌う「村上春樹つまらない」

近藤康太郎 朝日新聞諫早支局長

 昔から、ガールズバンドにはからきし弱い。去年は日本マドンナという超キュートな3ピースのパンクバンドにハートをズキュンと射抜かれてしまった。代表曲のひとつ「村上春樹つまらない」という歌が、すごいのである。

  村上春樹を読みました/なんだかとってもつまらない

  日本一の作家かよ/なんだかひどく残念だ

  人間的ものまったくねえな/ほんとは汚ねえおっさんだろう

  サンドイッチなんか食いやがって/米を食えよ、米食えよ

  人間とは汚くもっと生々しい/こんなきれいな文章でまとめるな

 ボーカル・ベースのあんな(当時18)は、最初、村上のファンで、小説もよく読んでいたらしいが、ある日突然、ステージで村上の本を引き裂き、この曲を歌い出したのだという。

 気持ちはちょっと分かる。

 わたしも村上のデビュー作『風の歌を聴け』にはズキュンと射抜かれて、今までに何十回となく読み返した。以来、小説はもちろん、小さなコラムも欠かさず読んだ。英訳された本はわざわざ取り寄せ読み比べていたんだから、かなり熱心なファンだったと威張ってもいいだろう。

 しかし、自動車嫌いの散歩好きだった村上が、イタリア車がどうたらこうたらとスノッブなコラムを書き始めるころから、なんとなく首をかしげるようになり、作品で言えば『海辺のカフカ』が各メディアで大絶賛されるころ、突然、嫌いになっちゃった。

 これは完全に狂信的ファン心理で、「あんなに好きだった○○も、サードアルバムあたりから売れ線に走っちゃったよな」みたいな、アタマの弱そうな会話は、全国のロックファンがあちこちでしている。当のアーティストにしてみれば、自作の縮小コピーをするのがいやだから、それこそ身を削って、どんどん脱皮しているのだろう。勝手に好きになって、勝手に裏切られたと思いこみ、激しく罵倒する。表現者にとって、迷惑千万な話だ。

 と、ここでコラムを終わってもよいのだが、せっかくだから、なぜ自分は嫌いになったのかもう少し考えると、村上小説の音楽の取りあげ方 ・・・ログインして読む
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筆者

近藤康太郎

近藤康太郎(こんどう・こうたろう) 朝日新聞諫早支局長

1963年、東京・渋谷生まれ。「アエラ」編集部、外報部、ニューヨーク支局、文化くらし報道部などを経て現在、長崎・諫早支局長。著書に『おいしい資本主義』(河出書房新社)、『成長のない社会で、わたしたちはいかに生きていくべきなのか』(水野和夫氏との共著、徳間書店)、『「あらすじ」だけで人生の意味が全部分かる世界の古典13』(講談社+α新書)、『リアルロック――日本語ROCK小事典』(三一書房)、『朝日新聞記者が書いた「アメリカ人が知らないアメリカ」』(講談社+α文庫)、『朝日新聞記者が書いたアメリカ人「アホ・マヌケ」論』(講談社+α新書)、『朝日新聞記者が書けなかったアメリカの大汚点』(講談社+α新書」、『アメリカが知らないアメリカ――世界帝国を動かす深奥部の力』(講談社)、編著に『ゲゲゲの娘、レレレの娘、らららの娘』(文春文庫)がある。共著に『追跡リクルート疑惑――スクープ取材に燃えた121日』(朝日新聞社)、「日本ロック&フォークアルバム大全1968―1979」(音楽之友社)など。趣味、銭湯。短気。

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