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2012年の「フィールド・オブ・ドリームス」――モバゲーベイスターズスタジアムへようこそ

鈴木繁 朝日新聞編集委員(文化)

 横浜ベイスターズを買収するDeNA。DeNAといえば、ケータイやスマートフォンでおなじみのゲームサイト「モバゲー」。モバゲーといえば「怪盗ロワイヤル」で、怪盗ロワイヤルといえば「壊れる武器」だ。

 「肉体派怪盗レベル140」の私の場合、1日平均7、8個は壊していると思う。どいつもこいつも実にもろく、ちゃちなシロモノだ。だが、このちゃちなウソ武器を死ぬほど売りまくることで、DeNAは球団ひとつ買えるくらい儲けた。サクセスドリーム。

 とりあえず、やってみましょうか。なに、やってみるだけなら無料だ。

 参加者はあまねく盗人になる。そして、与えられたミッションをクリアしてゲーム内の通貨「$」を稼ぎ、お宝を集め、ボスを倒すことでレベルを上げる。ミッション遂行と並行して、プロレスでいうところの「バトルロワイヤル」よろしく、お互いに獲得したお宝を奪い合い、盗人として出世していく。稼ぐ・倒す・奪う。ワイルドかつシンプルな資本主義的ゲームだ。

 この過程ですさまじく武器が壊れる。火炎放射器もグレネードランチャーもバズーカも壊れ続ける。壊れた武器の補充分の$も稼いでいないのに、また壊れちゃう。ついに$が尽きて、先には進めず、すでに完了済みのミッションを繰り返すことでお金と経験値を溜めようとすると、ここでもクソ武器野郎が壊れやがって、さらにやさしいミッション目指して遡る。

 いつぞや、高い技術力を誇る、とある一流電気機器メーカーの家電品について「一定時間が経つとちゃんと壊れるくらい、精巧に作られている」という都市伝説がまことしやかにささやかれたが、モバゲーでは壊れやすさは必須の要素としてシステムに組み込まれている。

 そこに「壊れない武器」という文字がぬっと現れたとしたら、どうでがしょ。おまけに段違いに強力な数値。いかすでしょ。ピカピカ輝いて見える。しかし、こいつは$では買えぬ。「モバコイン」が要る。うぬぬ。

 モバコインなんて人工的な名前がついているが、ずばり「円」だ。100モバコインは100円で買い、1000モバコインは1000円で買う。

 モバゲーをやったことのない大人は、ここまで読んで

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筆者

鈴木繁

鈴木繁(すずき・しげる) 朝日新聞編集委員(文化)

1957年生まれ。1983年、朝日新聞社入社。1987年から学芸部員となり、家庭、文化、娯楽、読書面などを歴任。2004~07年、文化部長。「AERA」シニアライター、オピニオン編集グループ記者などを経て、2011年4月から編集委員。担当は読書と文化一般。著書に『時代はへらふにゃ三白眼――朝日新聞〈さんでーすぽっと〉Vintage’90-’87』(第三書館)、編著に『漫画鏡 平成コミックワールド探検』(河出書房新社)。共著に『会社のフシギ――肩こり女は今日もお仕事!』(朝日新聞社くらしスタイル班/編、中央公論社)。2016年11月、死去。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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