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“孤高のドキュメンタリスト”フレデリック・ワイズマンの特集に走れ! 

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

 今、東京・渋谷のユーロスペースで、“孤高のドキュメンタリスト”フレデリック・ワイズマン(1930~)の作品が上映中だ(11月25日まで)。現在上映可能な36本の一挙上映という、空前絶後のワイズマン・レトロスペクティヴである。一人でも多くの映画ファンに駆けつけてほしい。

 ただし、初めてワイズマン作品を見る人は面食らうかもしれない。なにしろ、「無い無い主義」とも呼ばれるワイズマンの記録映画には、字幕・テロップ、ナレーション、インタビュー、背景音楽がなく、中心人物も存在せず、また一定のメッセージも告発もない(むろん何らかの断片的な<情報>は存在するが、それらが一貫したテーマを形づくることはない)。被写体となった人々のカメラ目線も、まれにしかない。まとまりのあるストーリーラインも、明確な時制もない。映し出される場面が、そのつど「現在」として、積み重ねられていくだけだ。つまり、鈴木一誌氏が言うように、ワイズマン作品には、テレビに詰めこまれているものが殆ど存在しないのである。

拡大フレデリック・ワイズマン監督

 たとえば、マサチューセッツ州にある「精神異常犯罪者」の矯正院の日常を克明に描いた『チチカット・フォーリーズ』(1967年、25年間一般上映禁止)。この監督デビュー作は、ショッキングな題材を扱ってはいるが、社会批判的なメッセージはない。少なくとも、それは前景化されない。カメラは患者・係官・看守・医師たちのさまざまな言動を、ひたすら<観察>していく(それゆえ矯正院の惨状は、かえって生々しく伝わってくる)。

――2歳の少女と性関係をもった若い男が、

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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

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