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[3]自由な精神

林るみ 朝日新聞「be」編集部員

 「自分のやりたいことをやる、好きなことをやる」

 前回、それがチャン・グンソクのスタイルだと書いたが、言うは易く行うは難し。とくに若いときは、簡単に実行できるものではない。儒教精神が根強く残り、分断国家として厳しい徴兵制の敷かれている韓国ではなおさらだろう。

あるファンがツアー「JANG KEUN SUK ARENA TOUR 2011 THE CRI SHOW IN JAPAN -ALWAYS CLOSE TO YOU-」で獲得した「戦利品」の数々。アリーナ会場に舞った金色のテープ、チケットと「きずな」と書かれたハガキ。今回のツアーでグンソクは、ファンからのプレゼントを受け取らず、代わりに会場で東日本大震災の被災地への募金を呼びかけた。その募金に応じると、この「きずな」のハガキがもらえた=ファン提供

 ところが、グンソクは若いのにそのスタイルを徹底させ、次々に実行している。それが他の若い韓流スターとの差異を際だたせているが、彼の行動を支えるのは、その環境も大きいが、なによりも、何者からも「自由でありたい」という彼の強い思いである。

 彼のその思いがいかに強いかを知ったのは、10月、名古屋・大阪・埼玉の3都市5公演で6万人を集めたアリーナツアーにおいてであった。

 前回のジャパンツアーから1年近く。前年のそれもファンミーティングの域を超えたショーであったが、今回のステージには、エンタテインメントショーとしての完成度はもとより、彼の精神性が色濃く出ており、グンソクという俳優のもつ底知れぬパワーを感じた。このまま進めば、彼はどこまで行くのかと、末恐ろしい気さえする。

(以下、アリーナツアーの内容についてネタバレあり)

 それは異色のステージであった。「この公演には僕自身のストーリーがある」「僕が話したいことがみんなこのステージにある」という彼の言葉どおり、「プリンス・グンソク」を主人公とするストーリーは、彼自身のドキュメントに重なるものになっており、彼の「考えていること」がわかる内容だったのである。

 本人が直接構成を手がけて、半年かけて入念に準備してきたというだけあり、ショーの規模、豪華さ、構成力は前年より格段にレベルアップし、アリーナに響きわたる歌声は、彼の歌のうまさを改めて見せつけた。しかし、今回の見どころはそれではない。曲目をあえて厳選し、ストーリーに沿って一曲ずつ意味を与えて歌い、さらにMCにもたっぷりの時間を裂き、自分の思いを自分の言葉で伝えたところにある。

 「僕は(自分が)だれなのかなと、ずっと考えています」

 10月26日、ツアー最終日、彼は大観衆を前に、こんな哲学的な言葉で語り出した。

 「僕にはいろんなイメージがあります。プリンス、雨男、ファン・テギョン(ドラマ「美男〈イケメン〉ですね」の主人公の名前)、グンソク、グンちゃん、チャン・グンソク……。でも、僕の考えでは、僕は“自由人”だと思うよ」

 端的、明快に自分のプリンシプルを言い表したのには驚いた。しかも流暢な日本語で。この公演では驚かされることが多々あったが、その筆頭が、3時間にわたるステージのすべてのトークを、通訳なしの日本語で語ったことである。

10月26日、「JANG KEUN SUK ARENA TOUR 2011 THE CRI SHOW IN JAPAN -ALWAYS CLOSE TO YOU-」(さいたまスーパーアリーナ)のグッズ売り場。公演終了後もグッズを求めるファンでごった返していた=撮影・筆者

 ミュージカル風に展開されていくストーリーは、自由を愛する「プリンス」が窮屈な城から逃げ出して、彼なりの自由を謳歌するが、世間やメディアからはその行動は「理解できない逸脱」と批判され、彼は苦しむ……といった、なんだかたいそうリアルなものだった。カールした金髪に王子服姿で登場した序盤こそ、コミカルでメルヘン調であったが、内容は次第に現実のグンソクとリンクし、ときにシリアスにさえ感じた。明るくパワフルな活動の裏に隠された彼の苦悩がかいま見え、せつない気持ちになったのは、私だけだろうか。

 語りも、これまでのステージで会場を沸かせてきた“オレ様”ジョークは影をひそめていた。最終日のMCでは、グンソクはステージのベンチに腰をおろし、しばらくタオルで顔を覆っていた。顔を上げると、アイメークを施した目に涙を浮かべていた。

 「いろいろなことがあったけれど、本当にごめんなさい」

 まず、震災で日本でのツアーが延期され、日本でのデビュー曲「Let's me Cry」を日本で歌うのが、アジア各地のステージのなかで最後になってしまったことを詫びた。「ずっと心が痛かった」と。

 そして自らの心のうちを語り始めた。

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