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 「僕の魂は、誰にも何時も邪魔されたくない」

 こう言い切るチャン・グンソクの新しさは、韓流というグローバリゼーションの最前線に立ちながら、「個」に強くこだわる精神性にある。そしてじつは、その内面は、明るく自由奔放な振る舞いからは意外なほど真面目であり、繊細でもあると思われる。

拡大「JANG KEUN SUK ARENA TOUR 2011 THE CRI SHOW IN JAPAN -ALWAYS CLOSE TO YOU-」の最終公演は10月26日、さいたまスーパーアリーナで行われた。会場には、撮影用のチャン・グンソクのパネルが置かれていた=撮影・筆者

 日本で「グンちゃん人気」が爆発したのも、観衆は彼の愛くるしい笑顔に、美男〈イケメン〉だけではないもの、余裕と才気から生じる“明るさ”とともに、彼の自由な精神と、真面目さを見ているからだろう。

 ただ、私見であるが、今回のアリーナツアーのステージでつくづく思ったのは、チャン・グンソクはやはり、韓国人の俳優である、ということだ。彼の精神性に、いまの韓国を生きる若者らしさを強く感じるのである。

 じつは、「個」や「自由」にこだわる精神こそ、これからの韓国を考えるうえで重要なキーワードになると私は思っている。グンソクのように「自由」「個」にこだわる強力な若者が出てきたところが、いまの韓流の、ひいては韓国社会のパワーを表していると思うのだ。

 格差拡大、熾烈な競争、整理解雇、労働者の5割が非正規雇用……、数字の上で経済が順調に見えても、現実にはいまどこをとっても暗いのが韓国社会だ。日本に先行して新自由主義を突っ走り、もはや財閥と貧困層しかいないといわれるほど格差が広がった。とくに若者たちの状況はひどく、20代大学既卒者の9割が雇用不安にあるといわれる。

 しかし、そんな社会を変えようとしているのもまた若者たちだ。折しも、グンソクのアリーナツアー最終日と同じ10月26日、来年の大統領選の前哨戦といわれたソウル市長選で与党候補が敗北、“市民派”候補のパク・ウォンスンが当選したのは、日本でも“衝撃的”として報じられた。鍵を握ったのは若者であり、20~40代の有権者の7割が与党候補に「ノー」を突きつけた。

 思い返せば、2008年の米国産輸入牛肉解禁をめぐって起こった100万人キャンドルデモでも中心を担ったのは高校生たちだった。2010年の哨戒艦沈没事件後の統一地方選など、国政を左右する重要な選挙では若者たちがツイッターで投票を呼びかけて情勢を変え、与党へ打撃を与えた。今夏には学生たちが授業料半額と教育の公共性を要求して立ち上がった。既成政党に不信を抱き、政治離れが進んでいた若者たちによる新たな動きが出ている。

 韓国では日本の何倍もの速さとダイナミズムで社会が劇的に変貌している。若者たちの意識も急速に変わってきた。政治闘争に明け暮れたうえ既得権に安住してしまった上の世代に懐疑的であり、従来の価値観に縛られずに、映像や音楽のカルチャーを吸収しながら、自らの感性を磨き、個性を貫こうとする“新世代”が育っている。

 分断国家の韓国では、国家への忠誠・犠牲精神は個人に重くのしかかる。しかし、物質的豊かさとあいまって、国家を背負った従来の価値観とは違う、「自分のために、自分の好きなことを真剣にする」という新しい意識も育ってきた。彼らは、自分の頭で考え、自分の言葉をもち、「正しく生きる」とはどういうことかを問いながら、社会へも目を向ける。IT革命、ネット社会の申し子のような彼らはツイッターなどのソーシャルネットワーキングを変革への強力な発信手段としている。

 こうした若者たちの意識の変化、新世代の登場は、芸能界も例外ではない。「僕の魂は、誰にも何時も邪魔されたくない」「人は人の上に人を作らず」「真心は通じる」。チャン・グンソクが今回のツアーで語った座右の銘は、まさにいまの韓国の若者たちの気持ちを言い得ているものとしてもとらえられる。

 ただ人気稼業である若き韓流スターが、周囲の目を憚(はばから)らず、既成概念に対して、これほど毅然と挑発的な言葉を言い切るのも聞いたことがない。「僕はまだ若いけれど、自信があります」とグンソクはツアーで繰り返したが、韓流の最前線に立っているという自負がよほどなければ、なかなか言える言葉ではない。

 思えば、東方神起分裂-JYJ結成に代表されるような、 ・・・ログインして読む
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筆者

林るみ

林るみ(はやし・るみ) 朝日新聞「be」編集部員

1988年、朝日新聞社入社。「アサヒグラフ」編集部員、「パーソン」編集長、書籍編集部編集委員、「週刊朝日」編集部員、「AERA」編集部員などを経て、現在、朝日新聞「be」編集部。著者に『タイガとココア』、共編著に『IRISからわかる朝鮮半島の危機』『キム・ソナが案内する「私の名前はキム・サムスン」』『ホテリア――新版公式ガイドブック』など。

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