小山内伸(おさない・しん) 評論家・専修大学教授(現代演劇・現代文学)
1959年生まれ。慶応義塾大学文学部卒。ロンドン滞在を経て1989年、朝日新聞社入社。2013年に退社するまで、主に学芸部(現・文化くらし報道部)で文芸・演劇担当を務める。著書に『ミュージカル史』(中央公論新社)、『進化するミュージカル』(論創社)。日本演劇学会会員。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
これまで国内外でモーツァルトを題材にした舞台はたくさん創られてきた。その劇中ではしばしば、モーツァルトの音楽が劇中歌もしくはアンダースコアとして使われている。しかし、舞台の演出効果を優先するあまり、物語中の時代と作曲年とが矛盾するケースが見られる。
例えば、音楽座「マドモアゼル・モーツァルト」(小室哲哉作曲版)では、幼児のモーツァルトが、いわゆる「きらきら星変奏曲」(「ああ、お母さん、あなたに申しましょう」による変奏曲・ハ長調K265、1778年作曲)をピアノ演奏する場面がある。いかにも子供が弾きそうな曲で場面には似合っているものの、この時点ではこの曲はまだ作られておらず、モーツァルトがここで弾くのは実はおかしい。
その点、「アマデウス」は劇中で流される曲の生成年と時系列とが、ものの見事に符号している。その上、音楽が卓越した劇的効果をもたらしている。使用曲はすべて戯曲で指定されており、作者のシェファーが考えに考え抜いて選曲したことがわかる。
まず、31歳のサリエーリ(幸四郎)が25歳のモーツァルト(武田真治)と初めて会う1781年のウィーン。
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