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モーツァルト音楽の選曲が卓抜な舞台「アマデウス」

小山内伸 評論家・専修大学教授(現代演劇・現代文学)

 松本幸四郎主演・演出の舞台「アマデウス」(ピーター・シェファー作、ピーター・ホール1979年ロンドン・オリジナル版演出)が上演中だ。モーツァルト(1756-91)と同時代に生きた作曲家アントニオ・サリエーリを主人公に、芸術における天才と凡庸の相克を描く。この傑作については既に高い評価と賛辞が多く寄せられているが、ここではこの劇中で流れるモーツァルトの音楽について考察してみたい。

 これまで国内外でモーツァルトを題材にした舞台はたくさん創られてきた。その劇中ではしばしば、モーツァルトの音楽が劇中歌もしくはアンダースコアとして使われている。しかし、舞台の演出効果を優先するあまり、物語中の時代と作曲年とが矛盾するケースが見られる。

 例えば、音楽座「マドモアゼル・モーツァルト」(小室哲哉作曲版)では、幼児のモーツァルトが、いわゆる「きらきら星変奏曲」(「ああ、お母さん、あなたに申しましょう」による変奏曲・ハ長調K265、1778年作曲)をピアノ演奏する場面がある。いかにも子供が弾きそうな曲で場面には似合っているものの、この時点ではこの曲はまだ作られておらず、モーツァルトがここで弾くのは実はおかしい。

 その点、「アマデウス」は劇中で流される曲の生成年と時系列とが、ものの見事に符号している。その上、音楽が卓越した劇的効果をもたらしている。使用曲はすべて戯曲で指定されており、作者のシェファーが考えに考え抜いて選曲したことがわかる。

サリエーリ役の松本幸四郎=松竹提供

 まず、31歳のサリエーリ(幸四郎)が25歳のモーツァルト(武田真治)と初めて会う1781年のウィーン。

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